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迷走するNHKの「ネット放送」 資料からひもとく“あるべき姿”とは小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2023年07月07日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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民間と決定的に違う「NHKの報道体制」

 公共メディアとして、NHKの強みとは何か。これは言うまでもなく、全国47都道府県全てに放送局および支局を設置し、自社社員を送り込んでいる報道体制である。これはハード的には放送というインフラを「広くあまねく」展開するためなわけだが、ソフト面では全国でいつどこで何があっても自社の人間が現場に行って取材できるという強さにつながる。

 職員はだいたい4年ごとに、地方と中央を行ったり来たりして、報道レベルが均等になるよう調整される。もちろん地方にも花形の地域もあれば地味な支局もあるのだが、数年がかりで追いかけるべき大災害があれば、エース級の人材が地方に数年送られる。

 民放や新聞社は、地方とニュースネットワークを組んで全国をカバーするが、地方は地方の報道機関の能力に依存する事になる。NHKと民間のメディアとの決定的な違いが、全国均一のニュースクオリティーである。

 メディア企業が展開を考える場合、1ソースマルチユースを検討するのは当然である。NHKが「放送と同一の情報内容」として、テレビ放送するためのコンテンツをそのままマルチユースするというのは、経済合理性にかなう。

 一方でネットニュースのメリットは、一覧性と検索性である。今日のニュースがサムネイルと見出し一覧でずらりと見られるのは、Webでもスマホアプリでも同じアプローチだ。NHKは報道以外にも多彩なコンテンツを制作しているが、報道に関してはこのような見せ方が理にかなっている。

 一方で検索性については、ググってNHKニュースが出てきた、クリックしたら見られる、という流れでは、公共料金で制作されたコンテンツのフリーライドが起こる。そこをどのようにネットユーザーにも公平負担してもらうかがポイントになる。この点においては、第9回で委員からの質問に応える形で、

 「スマートフォンを保有するだけで契約をお願いするようなことは入らない」

 と明言している。だがその一方で、

 「いわゆる『課金制』と認識できてしまうことは、公共放送の本旨と相容れない」

 とも言う。

第9回で配布された質疑応答内容(下線は筆者)

 NHKのいう「いわゆる課金制」、とは何を意味するのか。サブスクも課金制だし、コンテンツを見た分だけ払う従量制も課金制の1つである。

 「利用するから料金がかかる」というのではなく、テレビ受信料のように、国民(世帯)が見る・見ないに関わらず公平に負担する方法が望ましいということかもしれない。だがそんな都合のいい方法が存在するのだろうか。キャリアへの通信費に一律乗っけるという方法論はあるかもしれないが、これはさすがに一筋縄ではいかないだろう。

 現在若者を中心に、情報の取得方法がテキストから動画へ移りつつある。ニュースもテキストから動画で見る時代に突入するなら、そこに一番近いポジションに居るのはNHKである。巨大コンテンツメーカーであるNHKがフルでネットに出てくるのは大きなインパクトがあり、各所に多大な影響が及ぶと考えられる。だがまずはNHK最大の強みである報道にどう道筋を付けるか、そして公共メディアとして国民にどのようなメリットがもたらされるべきかというところから、考えていった方がいいのではないだろうか。

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