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”ChatGPT時代”初の夏休み どうする学校のAI対策 保護者から見た文科省「AIガイドライン」の中身小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2023年07月13日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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AIで先生は楽になる?

 筆者が個人的に問題視しているのは、教員の労働時間の長さである。高校のPTAの委員会に行くと、午後7時でも職員室前の廊下では先生が長机の上に生徒達の大量のノートを広げてチェックしたりコメントを書き込んだりしているし、分からないところをマンツーマンで生徒に指導している姿を見かける。放課後の方がむしろ忙しすぎて、部活動の指導にも行けない先生も多い。委員会終わりの8時過ぎでも、職員室の明かりが消えることはない。

 しかも九州地方特有の「朝課外」まで実施されており(編集注:筆者は宮崎在住)、先生方は準備のために朝7時ごろから出勤しているはずだ。毎日ではないにしても、12時間以上の勤務は珍しくないように見える。

 こうした負担を減らすために、2009年ごろから校務のデジタル化が叫ばれていたが、ごく一部の「スーパー先生」がいる学校にしか導入が進まなかった。だがGIGAスクール構想により学校にネットが引かれ、校務のデジタル化もようやく全国レベルでの普及が期待できるようになっている。

 ガイドラインでも、校務の活用についていくつかの具体例を上げている。ほとんどは「たたき台」になっており、そのままを使うなとくぎを刺されているが、たたき台ができるだけでもずいぶん違うだろう。

生成AIの校務での活用

 特に担任ともなれば、保護者向けや生徒向けの「○○だより」や「○○通信」を定期的に発行しなければならず、こうした教務もたたき台があれば早いだろう。その一方で、AIにたたき台を頼るぐらいなら、もうなくてもいいんじゃないかとも思う。正直、ああしたものを熱心に読む保護者はほぼいないのではないか。

 ここ10年ぐらいで急増している外国人保護者へ向けての個別の連絡については、外国語翻訳が相当役に立つのではないだろうか。これは筆者も通学班の連絡で経験があるが、英語ならともかくそれ以外の言語では、自宅を訪ねても日本語が分かる配偶者が帰宅するまで全く意思疎通ができないとか、唯一通訳できるのが小学校低学年の子供だけ、といった状況が、リアルにある。翻訳が正確かどうかのチェックは、マイナーな言語ではなかなか難しいかもしれないが、多少間違いがあっても意思疎通が全くできないよりはマシであろう。

 もう1つ、現場の先生方を忙殺させているのが、教育委員会から降りてくるアンケートだという指摘もある。何か学校関係の事件事故がある度に、いちいち全国の教育委員会でアンケートが始まる。

 こうした雑校務も、何かをきっかけに「いる・いらない」の仕分けをすべきだろう。本来ならばコロナ禍がそのチャンスだったわけだが、「学びを止めない」のスローガンの元、むりやりこれまで通りを求められ、リモート授業への対応などむしろやることが増えてしまった。このAIの波は、うまく使わなければならない。

 少なくとも今回のガイドラインでは、文科省はAIの利用に関して否定してはいないが、その一方で先生がAIを扱えないのなら無理、と言っているようにも読める。これまで教育水準は、「地域格差」や「経済格差」の影響を受けてきたが、GIGAスクールの展開により「ITリテラシー格差」を生み出しつつある。それはある意味「先生格差」であり、もはや教科がちゃんと教えられる、教え方がうまいというレベルを超えた「差」である。AIの出現によって、この「先生格差」はさらに拡大する可能性もある。

 ITリテラシーは、ある面では家庭教育に頼ってきた部分もあるが、AIに関しては保護者もよく分かっていない。AIを日常的に利用している人はごく一部であろう。

 AIを導入すれば、学びは確実に変わるだろう事は予想できる。だがどうしてもそこにつきまとうのは、「これまで通りじゃなぜダメなんですか」という先生の悲鳴だ。これは、デジタル教科書導入に反対した先生方の言い分と同じである。

 簡単な方法で先生にもメリットがあり、生徒にもメリットがある、そうした使い方を早急に見つけ出さなければならない。今後の議論は、中央教育審議会等が中心となって検討を行なう事になっている。だがこれまでにない新しいアイデアこそ、パブリックコメントで広く一般から知見を募集すべきものだろう。

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