このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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電気通信大学の梶本研究室に所属する研究者らが発表した論文「LivEdge: Haptic Live Stream Interaction on a Smartphone by Electro-Tactile Sensation Through the Edges」は、ライブ配信者が反応した際の触覚をスマートフォンを介して提示する手法を提案した研究報告である。スマートフォンを握る手に、配信者の反応によって発生する触覚を電気刺激やバイブレーションで表現することで、多様な刺激を視聴者に与える。
ライブ配信では、視聴者とのコミュニケーションやインタラクションの主な手段は、基本的にコメントやギフトサービスである。それに加えて、視聴者は間接的にゲームに参加でき、配信者に非言語的な感情を伝えられるサービスもある。
しかし、これらのサービスは主に視覚的・聴覚的なエンタテインメントに焦点が当てられている。例えば、配信者の登場や画面上のエフェクト、声やサウンドエフェクトなどが中心だ。一方で、ファンが好きなアイドルと直接会って握手できるような対面型のイベントのように、物理的な接触による強いインタラクションはない。
今回提案する「LivEdge」は、スマートフォンの側面に貼り付けた電極アレイからの電気刺激によって触覚を提示する。具体的には、画面に映った配信者の手がスマートフォンの縁に触れると、その延長線上のスマートフォンの側面に電気刺激が発生し、視聴者の握っている手に刺激が伝わるという仕組みである。配信者が触れた位置と、視聴者が受ける電気刺激が発生する位置はほとんど同じであり、配信者の空間的な所作を触覚を通して共有できる。
配信者が頭突きや平手打ちなどの強いインタラクションを起こした場合は、電気刺激だけでなくバイブレーションも同時に提示され、触覚表現が強調される。
さらに、電極への視聴者の指の接触は常に検出されており、視聴者の指の位置を配信者にフィードバックできる。
システムは、ライブ配信者用のWebカメラとモニター、ストリーミングサーバ、電気刺激インタフェースを搭載したスマートフォンで構成される。システムの流れは次のようになる。
(1)Webカメラで撮影した配信者の映像データをストリーミングサーバに送信する。
(2)モーションキャプチャーを行うソフトウェアを利用して映像データを処理する。
(3)トラッキングデータをもとにUnityで電気刺激コマンドデータを生成する。
(4)トラッキングデータと電気刺激コマンドデータを無線でスマートフォンに送信する。
(5)開発したスマホアプリケーションにアバターを表示し、触覚を提示する。
実際に体験した参加者の中には、「配信者が指に触れる感覚のリアルさに驚かされた」「配信者が手の中に存在するような感覚を覚えた」といった好意的な反応があった。
Source and Image Credits: Taiki Takami, Taiga Saito, Takayuki Kameoka, and Hiroyuki Kajimoto. 2023. LivEdge: Haptic Live Stream Interaction on a Smartphone by Electro-Tactile Sensation Through the Edges. In ACM SIGGRAPH 2023 Emerging Technologies(SIGGRAPH ’23). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 10, 1-2. https://doi.org/10.1145/3588037.3595386
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