大橋 SF作家からのSF小説を読んで、どのような感想を持たれましたか?
高山 議論したことを、ワクワクするお話としてまとめられていたのは、さすがだなと思いました。
例えばAnother Meを題材にした議論では、故人のAnother Meをどう取り扱うべきなのか? Another Meがしたことを誰が責任を取るのか? というテーマがありました。それが作品の中でも取り上げられていて、しかもカチッと物語にハマっていました。またAIが感情を持つのか? 思考をするのか? という点についても、作家さんと議論をしたことが生かされていました。
2054年、観音崎。汀(みぎわ)は、『Another Me<デジタルの複製>』でしかない自分を孫として、人間として扱う岬に戸惑いを感じていた。岬はツールと人間とを取り違える年齢ではないはずだ。岬の真意は何か。考えを巡らせる汀の前に、黒いスーツ姿の男が現れる。自らを「祖父」と名乗るその男は、岬のことをよく知っている、と告げた ―――
(吉上亮/NTT人間情報研究所/WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所)
※紹介文はNTTデジタルツインコンピューティング研究センタのWebサイトより引用。小説はこちら。
北端 感性コミュニケーションについては、事物に対する印象を知覚する能力や特性のような、言葉で表すのが難しい感性の個々人の違いを分かり合い共有しあえると、今以上に濃密なコミュニケーションが可能になるのではないか、というわれわれの議論を作家さんにインプットしました。小説ではそれをもとに、物事の印象の違いを感じ取る粒度「印象分解能」と、印象一つ一つに対する好みの度合い「印象選好度」で感性を測れるようになった未来で技術がどう利用されていくかを緻密に描いていただきました。
さらに、そんな未来では感性を会社の人事評価にも使うかもしれないなど、技術が普及した先での利用方法を広げた未来を描いていただいています。また感性を測る技術や、自分の感じ方や受け止め方の違いを翻訳してくれる技術など現在取り組んでいる研究が、実際に日常的に利用される未来もプロトタイプしていただけました。
大橋 小説を読んで臨んだワークショップはいかがでしたか?
高山 でき上がった小説を読んだ上で、例えばAnother Meを持ちたいか? 自分が亡くなった後にAnother Meを作ってみたいか? という議論をしました。すると、自分の業績として残したい方、自分のためではなく周りのためにAnother Meを残したい方など多様な考えが出てきて、そこに気付きがありました。われわれとしては多様な声を上手に取り入れるにはどうすれば良いか、深く踏み込んだ議論ができました。
私自身、小説ができるまでAnother Meは自分のコピーという概念しかなかったのですが、一緒に仕事をするというのはどのような感情を伴うのか、交わされる会話はどういう内容なのかなど、Another Meに対するイメージがクリアになりました。自分の分身であるAnother Meが失われたときの気持ちや、そのことがどれだけつらいことかが深く理解できました。やはり、人々の心の機微を描き出せる点は小説の良さだと思いました。
北端 小説が出来上がった後、同じ研究グループのメンバーと議論しました。普段の研究での議論は「技術でどう実現するのか?」「この技術でここまでできるか?」という話になりがです。しかし小説を基にすると「こういう世界になって、こう評価されたら嫌だけど、こういうふうに利用されるならいいな」というように、どう作るかではなく自分がこの技術を使うならどう感じるかという議論になりました。
同じ小説の世界観を共有してベースにすることで、視点が違う人たちと議論ができて盛り上がれる。また、自分の考え方と違う人がこの未来をどう感じるか、こういうことは許容できる人もいるのか、など多様な視点から技術の未来を見つめることができ、とても刺激になりました。
深山 SFプロトタイピングに取り組んだ目的でもあったのですが、未来を描くことで、人の感情としてどのような未来の捉え方があって、どのような課題があるのかを明らかにする。そこからバックキャスティングして研究の課題や方向性を定めていくことができました。技術だけでなく社会実装や倫理面、社会制度などはどうあるべきかを考えるための課題を抽出できたことや、今後の研究の種になるような情報を得られたことが大きな成果だと考えています。
SF小説はショートショートではなく中編になっています。ある時点の未来だけを描くのではなく、そこに至るまでの社会的な議論や生活していた人々の想いなどを描き、最終的に「こうなった」と着地させた方が説得力も違うと考えたからです。また、過程を描くことで「これをこうすれば」といった仮定の議論もしやすくなります。
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