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「分身を作る技術」研究中のNTT、SF小説を制作 未来を形にしたから“気付けたこと”SFプロトタイピングに取り組む方法(4/4 ページ)

» 2023年08月25日 08時00分 公開
[大橋博之ITmedia]
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少し先の未来をイメージして技術開発 NTT技術者とSFの親和性

大橋 SF小説を読むことに抵抗はなかったのですか?

高山 普段、小説は読み慣れていないのですが、今回は特に抵抗はなかったです。小説は論文に比べてナラティブといいますか、感情の変動や人がどう生活しているのか、何を考えているかが、かなり細かく描かれていて、その点は良いと思いました。それは、われわれが書く論文や研究のスライドで出てくるユーザー像に足りていないところだと感じました。その点が小説の強みであり、SF小説で未来の技術を描く強みだと思います。

北端 年代がバレてしまいますが「機動戦士ガンダム」や「銀河鉄道999」などのアニメを見て、その後、小説版を読んで幼少期を過ごしました。それで「私もいつか、このようなものを作れる人になるぞ!」と思いました。同じように「宇宙船を作ろう」「巨大ロボットを作ろう」と思って技術者・研究者になった人は多いと思います。私は機動戦士ガンダムに出てきたロボットの「ハロ」が欲しいと思いました(笑)。

高山 私もSF映画はよく観ました。昔ならウルトラマンとかゴジラとか。影響を受けたSFにはドラえもんもあります。ドラえもんの道具はいいなと思いました(笑)。

深山 社内でもSFはウケがよく、SF好きの人は何人もいました。私も仕事でSFを参照することはよくあります。良くいわれるのがAnother Meは漫画「パーマン」に出てくる「コピーロボット」に似ていると。われわれはガチガチな技術者というよりも、未来の世界や少し先の生活をイメージして技術開発をすることが染みついています。SFに対する苦手意識はなかったですね。

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技術ばかり「本当にこれで良いの?」 SFプロトタイピングで得た気付き

大橋 SFプロトタイピングに取り組んでみて、いかがでしたでしょうか?

高山 今まで未来の技術を作るところに難しさを感じていました。どうしても「本当にできるのか?」とフィジビリティ(実現可能性)を気にし過ぎるところがあったのですが、「未来はこうなるんじゃないか?」と想像力を働かせて、そこから考えていくというSFプロトタイピングは一つの手法としてとても役立ちます。研究や思考を積み上げることももちろん大事なので、SFプロトタイピングなどそこからいったん離れた考え方と、従来の研究のような積み上げの考え方の双方向で考えていき、「何が必要か?」を考えることができます。今後も活用していきたいと思いました。

北端 これまでは「こういう技術があるから、これができる」という発想でした。もちろんそれも一つの方法ですが、一度飛ばして未来を描いてみる。もちろん、いい加減な未来ではなく。実際、SF作家もわれわれからのインプットだけでなく、関連の研究なども調べて書いてくれました。われわれは描いたこの未来をどのようにして社会に実装していくのか? 逆にこの未来を実現するには「この方向ではない」という議論に使えると個人的には思っています。技術に走っていたことを「本当にこれで良いのか?」と考え直すきっかけになるというか。そんなふうに使って行ければと考えています。

深山 ビジョンドリブン型のプロジェクトとしては、とても良いツールだということが分かりました。今後も取り組む可能性はあります。

 われわれとしては今、バックキャスティングのところを内部で議論しているところです。研究テーマを設定したうえで、描いた未来に近づけるためにはこんな技術が必要だと出していければと考えています。

大橋 それは期待しています。ありがとうございました。

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 ビジョンドリブン型で、捉えどころのないビジョンをSF小説で具現化してみるのは面白い試みだと感じました。研究テーマに関わるため公表できない情報も多いそうなのですが、それでも完成したSF小説は広く公表しています。今後の研究に期待したいと思います。

 SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。SFプロトタイピングを提供すると共に、この連載で紹介させていただきたいと考えています。

連載:「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!

SF《サイエンスフィクション》をビジネスに活用する「SFプロトタイピング」。現実を取り払って“未来のイノベーション”を生み出す可能性を秘めた取り組みの最前線を追う。

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