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豚の体内で“人間の臓器”の成長に成功 中国の研究者らが発表 移植用臓器不足の軽減を目指すInnovative Tech

» 2023年09月19日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 中国科学院などに所属する研究者らが発表した論文「Generation of a humanized mesonephros in pigs from induced pluripotent stem cells via embryo complementation」は、移植用の人間の臓器を豚の体内で育成することに成功した研究報告である。正確には、50%以上がヒト細胞で構成された初期の腎臓構造を豚の胚中で最大28日間培養できたという。将来的には、人間以外の動物で培養した人の臓器を人間に移植する未来を目指す。

ブタの胚にヒト細胞を入れて撮影した写真。ヒト細胞は赤く光るマーカーがついているので、ブタの胚の中での位置を追跡可能

 世界中には腎臓移植を待つ患者が大勢おり、毎日移植を受けられずに死亡している人がいる。移植用の臓器不足を解決する方法の1つとして、人間以外の動物で人間の臓器を培養する手法が研究されている。

 人と似た臓器のサイズと生理を持つ豚が、この研究の候補として挙がっている。やり方は、まず臓器の発達に必要な2つの主要な遺伝子を無効にし、豚自身の腎臓を形成できない豚の胚を作成する。これは、腎臓を持たない豚の胚を意味する。

 次に、この腎臓を持たない豚の胚に、ヒトの幹細胞(体内で多くの異なるタイプの細胞に分化する能力を持つ細胞)を導入する。この幹細胞が豚の体内で腎臓の細胞に変わり、関連する臓器に組み立てられることを期待するのが、今回の実験の目的である。

ヒト細胞をブタの胚に注入する工程の概要図

 研究者たちは、このヒトと豚のハイブリッド胚を13頭の母豚の生殖管に1800個以上移植した。ヒトの細胞が腎臓を超えて広がると、ヒトのような脳を持つ豚が生まれる可能性があるため、倫理的な配慮から胚を25日から28日間しか成長させなかった。

 成長に成功した胚は5個のみだったが、50〜65%のヒト細胞と残りの豚の細胞で構成される初期の腎臓構造、例えばミニチュアの尿細管を形成できた。

 研究者たちは赤色蛍光マーカーを使用して、豚の胚の中でヒト細胞がどこに移動したかを追跡した。その結果、初期の中枢神経系や他の臓器に組み込まれたヒト細胞はほとんど見られなかった。

 現在、研究者たちは研究所の倫理委員会から、ヒトと豚のハイブリッド胚を最長35日間成長させる許可を得ている。また、心臓や肝臓のような他のヒトの臓器を豚で培養する試みも検討中という。

Source and Image Credits: Jiaowei Wang,Wenguang Xie,Nan Li,Wenjuan Li,Zhishuai Zhang,Nana Fan,Zhen Ouyang,Yu Zhao,Chengdan Lai,Hao Li,Mengqi Chen,Longquan Quan,Yunpan Li,Yu Jiang,Wenqi Jia,Lixin Fu,Md. Abdul Mazid,Yanling Zhu,Patrick H. Maxwell,Guangjin Pan et al. Generation of a humanized mesonephros in pigs from induced pluripotent stem cells via embryo complementation



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