このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米カリフォルニア大学デービス校に所属する研究者らが発表した論文「Privee: A Wearable for Real-Time Bladder Monitoring System」は、膀胱をリアルタイムにモニタリングするためのウェアラブル下着を提案した研究報告である。下着に搭載されるセンサーは、体組織や液体の電気的特性を捉え、分析することにより、膀胱が尿で満たされているかを非侵襲的で連続的に監視できる。
尿失禁は、尿の自発的な排出や膀胱の制御喪失を示す現象であり、これにより社会的、心理的、衛生的な問題が引き起こされ、生活の質が低下する。全世界で2億人以上が、更年期や肥満、膣分娩、過去の子宮摘出手術、アルツハイマー病、認知症、パーキンソン病、脳性まひ、脊髄損傷などのさまざまな原因により、尿失禁を経験している。
この研究では、新しい電子テキスタイルベースのリアルタイム膀胱モニタリング技術「Privee」の開発と試験が行われた。この下着には、8つの刺しゅうされた電極とテキスタイル伝送路を取り入れている。電極とハードウェアの間の信号伝送ラインは、銀でコーティングされた導電性の糸を生地に直接刺しゅうすることで実現している。排尿や排便の際に着脱が不要となるよう、股間部分は開放している。
腹部周辺にあるセンシングネットワークはセンサーとして機能し、膀胱が尿で満たされる際の電流のインピーダンス、すなわち抵抗を検出・測定する。テキスタイル伝送路は、電極とモニタリングシステム間の接続性を確保し、データや信号の伝送を行う。取得したデータに基づき、膀胱の満たされた状態を機械学習モデルで分析し、排尿の必要性を推定する。
Priveeは、生体インピーダンス分光法を利用して、カテーテルの挿入なしで膀胱の状態を非侵襲的にモニタリングできる。
この技術の非侵襲的な性質は、侵襲的な膀胱モニタリング方法と関連する不快感や潜在的なリスクを排除する。そして、尿失禁や過活動膀胱、手術後のケアが必要な人々など、定期的な膀胱機能のモニタリングが必要な人々にとって便利でユーザーフレンドリーな解決策を提供する。
Source and Image Credits: Ruoyu Zhang, Ruijie Fang, Chongzhou Fang, Houman Homayoun, and Gozde Goncu Berk. 2023. Privee: A Wearable for Real-Time Bladder Monitoring System. In Adjunct Proceedings of the 2023 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing & the 2023 ACM International Symposium on Wearable Computing(UbiComp/ISWC ’23 Adjunct). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 291?295. https://doi.org/10.1145/3594739.3610782
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