まだまだ問題点は多数指摘されているが、上記2点だけでも十分すぎるほど問題だらけの施策であることがわかる。さらにこの政策の方向性や、決定プロセスにの問題も指摘されている。
「東京大学先端科学技術研究センター/一般社団法人経済安全保障マネジメント支援機構」は、上記「決済・課金システムの利用義務付け」について、
アプリケーションソフトを開発した者が独自の決済・課金システムを用いることについては、少なくとも、OS提供事業者に知的財産権の対価を徴収することを認められることを明示すべきである。
と、知的財産保護の面で問題があるとしている。もう1点、報告書では「Sign in with Apple」(SIWA)というAppleのソーシャル・ログインを選択肢に表示することを義務付けていることを問題視している。ただこれは義務付けというより、他のSNSアカウントを使ったログインを提示する場合は、Appleのも入れてください、という話である。これについても、
現行のSIWAにおいては、ユーザは、アップル社に対して設定した自らのIDのみを用いてアプリケーションソフトにアカウントを設定し、その際、ユーザを追跡したりプロファイリングしたりすることがないという同社の方針に信頼して行動することができるのであり、その利便性は大きい。これを知的財産権の観点から見れば、同社は、自らの営業標識(「アップル」商標など)に対して営業上の信用を蓄積しているのであり、その成果は、知的財産権として手厚く保護すべきものである。
と指摘している。さらに報告書では、アップルがUltraWideBand(超広帯域無線)へのアクセス制限を行ったことを問題視しているが、この点においても
多大の費用と労力を要して開発した知的成果物について他人のアクセスを強要するのは、開発のインセンティブを殺ぎ、フリーライドを許容し、貿易上の不正をもたらすとして、WTO体制において厳に慎むべきだとされてきた。(中略)
WTO協定は、依然として自由貿易体制を裏付ける基本的な実定国際法である。にもかかわらず、それを敢えてないがしろにする姿勢を政府の公式な文書で打ち出すというのは、およそあってはならないことである。
と、国際法違反である可能性を示唆している。一方「JEITA 電子情報技術産業協会」は、
最終報告作成に向けた実質的な議論を行ってきたデジタル市場競争会議ワーキンググループ(WG)は長らく非公開設定で開催され、関連議題の議論期間中、事務局提出資料は一般に公開されず、議事録についても公開までに数ヶ月の時間を要しており、また一部は依然として一般に公開されておりません。このため、どのような観点から深く議論がなされたのかなど、窺い知ることが難しく、また、構成員以外の専門家や当事者企業、ステークホルダーが、その過程で意見を述べることが容易ではありません。非常に影響範囲の大きい政策的検討であることから、立法事実を明確にした上で、消費者団体や経済団体を含む多様な専門家やステークホルダーからの意見を踏まえた多角的な視点からの政策決定が望まれます。
と、政策決定プロセスに問題があったことを指摘している。これは昨年10月、Blu-ray録画補償金導入時にこのような不透明なプロセスを通って閣議決定がなされた経験をふまえ、JEITAとしては特に問題視したい部分であろう。
加えて
急速に変化するデジタル領域にそぐわない政策が導入・実施される場合には、本来実現されうるイノベーションを遅延・阻害する要因ともなります。
とも指摘する。つまり変化の早いデジタル領域に対して政府の動きが遅すぎるために、こうした介入は日本のデジタル産業を時代遅れにするという指摘である。
筆者の主張はインターネットユーザー協会のコメントにもあるが、同様の施策はすでに欧米で議論が先行している。日本は完全に「後出しジャンケン」なわけである。せっかく後出しなのに、良くて共倒れ、悪くすると稚拙な論理武装で大負けの手を出そうとするのか。
現状に課題があるのは事実だが、その解決策の手が悪すぎる。先行する「手」をよく見て、勝てる勝負をするべきである。
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