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ネズミの“想像力”を米研究所が発見 考えるだけでVR内を移動できるか検証Innovative Tech

» 2023年11月14日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 米国のハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)に所属する研究者らが発表した論文「Volitional activation of remote place representations with a hippocampal brain-machine interface」は、ラットが“想像力”を持っていることを示す研究結果である。ラットは単に思考するだけで、VR内を移動して目的地に到達したり、目的の場所にオブジェクトを移動させることに成功した。

 研究者たちは、ラットの想像力を調査するために、VR(バーチャル・リアリティー)を用いたBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)システムを開発した。具体的には、球形のトレッドミルの周囲に360度のスクリーンを設置した。ラットはこの球形のトレッドミル上で歩き、その動きがスクリーンに投影される。その際、空間記憶をつかさどる海馬の特定の神経活動パターンを計測し、同様の神経活動パターンでVR内を移動できるようBMIを訓練した。

球形のトレッドミル上にラットが置かれたイメージ図
トレッドミルやスクリーンを上から見た画像。中心にトレッドミルがあり、中央にはラットがセットされている。周囲のスクリーンには映像を投影

 最初のタスクでは、ラットが指定された目的地にVR空間内で到達すると報酬が与えられるよう設定した。ラットは球を転がすように、トレッドミル上で動きスクリーンに映し出される映像を見ながら目的地へ到達できた。

(左)ラットから見えるスクリーンに映し出されている映像(右)、トレッドミル上を走るラットの様子

 次の「Jumper」と名付けられたタスクでは、トレッドミルを固定し、ラットが目的地を想像するだけで報酬が得られるように設定した。このタスクでの特徴は、BMIがラットの脳活動を直接VRのスクリーン上の動きに変換することだ。

 このため、トレッドミル自体は動かさなくても、ラットの思考に基づきスクリーン上の映像が動き、VR内での目的地への移動が実現される。この実験を通じて、ラットは単に思考することでVR内で目的地へと移動する能力を持つことを示した。具体的な様子は、以下の動画で確認できる。

 「Jedi」と名付けられた次のタスクでは、ラットが思考のみでスクリーン上のオブジェクトを特定の位置に移動させることを試みた。トレッドミルとスクリーン上の映像は固定され、ラットはVR空間内のオブジェクトを目的地に移動させる課題に挑戦した。

 これは、例えばオフィスの席に座ったまま、遠くのコーヒーマシンの隣に置かれたカップを想像して、それを取りコーヒーを注ぐことを想像するのと似ている。人々が過去の出来事を回想したり、未来のシナリオを想像する能力は、特定の場所や物を思い浮かべる能力に基づいている。この実験の目的は、ラットが物理的な動作に関わらずに特定の場所や物を思い浮かべる、つまり「想像する」能力を持つかどうかを検証することである。

 結果として、ラットは身体的には動いていない状態でも、海馬の神経活動を制御してVR内のオブジェクトを意図した位置に移動させることに成功した。

 また、研究者らは記憶をただ回想しているだけでないことを示すため、オブジェクトの目的地を変更し、ラットが新しい位置を想像し、それに対応する脳の活動パターンを生成するように挑戦させた。ラットはこの新しい課題にも適応し、意図した位置にオブジェクトを移動できた。以下の動画では、ラットが思考のみで、固定された状態のトレッドミルやスクリーンに関わらず、オブジェクトを移動させる様子が観察できる。

 特筆したいのは、ラットは特定の場所に焦点を当てることを学び、その場所を数秒間思い浮かべることができた点である。これらの実験結果から、ラットが海馬という特定の脳領域を用いて、自らの想像力を意識的に操作できることが明らかとなった。

 具体的には、VR環境内での移動や目的地への到達、さらにはオブジェクトの特定の場所への移動といった行動を、単に思考することで成し遂げる能力がラットには存在することを示した。この発見は、過去の出来事を思い出す能力や、未来のシナリオを想像する能力の発現機構の一端を示唆している。

Source and Image Credits: Chongxi Lai et al. ,Volitional activation of remote place representations with a hippocampal brain-machine interface.Science382,566-573(2023).DOI:10.1126/science.adh5206



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