ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

ライドシェア導入、日本の進め方が“いびつ”と感じるワケ 爆発的に普及した海外と違う、日本特有の事情小寺信良のIT大作戦(2/4 ページ)

» 2023年12月21日 14時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

すれ違うそれぞれの思惑

 日本ではすでに人手不足が慢性化しているが、それを効率化でカバーしているところはまだいいほうで、人的リソースの酷使という手法でなんとか持ちこたえてきたというのが多くの現状である。タクシー業務というのは1台に1人必ず人員が必要であることから、効率化でのカバーには限界がある。

 それがコロナ禍に突入したことで、突然タクシー需要が激減した。この時期、多くの自治体では、タクシー事業者に事業継続のため助成金が給付されたが、もともとそれほど弾力性のある市場ではない。助成金の終了とともに、高齢を理由に引退したドライバーも相当あっただろう。

 筆者は地方住まいだが、タクシーの利用にはちゅうちょしないほうである。乗車したタクシードライバーの話では、自社には2000台のタクシーがあるが、乗務員は1500人しかいないのだという。つまり25%もの車両が、今も動いていない。

 超党派の「ライドシェア勉強会」では、法改正では時間がかかることから、現行法の範囲内でできる限り早期にスタートさせ、ゆくゆくは法改正で対応するという2段構えで議論を進めている。そこには新規事業者の創出や、働き方の多様化を目指すという方向性が示されている。要するにタクシー不足を理由に、どうにかライドシェアを日本に導入したいという思惑が見える。

 一方でタクシー業界からは、厳しい規制の中で事業を続けていたなか、好き勝手にやられては困るという意見は当然出てくる。ドライバーの教育や身元保証も含め、乗客の安全性は大丈夫なのかといった指摘だ。

 これに対して認可を急ぐ大阪府・大阪市では、ライドシェア車両にはドライブレコーダー設置を義務付け、認可事業者が遠隔で監視するなどの案を追加している。ドライブレコーダーと言えば一般には車外に向けるものだが、ここでは車内を撮影するものという意味だろう。

 ご存じかどうか分からないが、現行のタクシーもすでに1980年代から車内にボイスレコーダーを備えていた。今は動画カメラに変わっている。これは主に乗客とのトラブルから乗務員を守るという意味合いが強かったが、ライドシェアではその目的が逆になりそうだ。

 こうした流れの中、政府が示した方向性は、ドライバーがタクシー会社と雇用契約を結ぶことを条件に、ライドシェアを認めるというものだった。海外のライドシェアでは、働く人の就労環境が次第に過酷になり、どう守っていくかが課題となっているのは事実だ。Uber Eatsでも同様の問題があったところだが、要するにそれで働く人達はそれぞれがフリーランスであり、雇用関係のある従業員ではありませんので運営者は何かあっても責任を持ちません、が通用するのかという話である。

 シェアライドで事故を起こせば命に関わる。よって何かあれば、雇用関係にあるタクシー会社に尻を拭かせようというわけである。

 ただこれでは、働く人にとっては単に使用車両がタクシー車両か自家用車かの違いしかない。まあ普通二種免許まで求めないというなら多少は間口が拡がるだろうが、やってみたいという人はあくまでも「副業として」であって、タクシー会社に就職したいわけではないだろう。それはもはや一般に言う「ライドシェア」とは違う業態である。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.