タクシーが足りないというのが議論の発端だが、都市部と地方では「足りない」の性質が違う。都市部でタクシーが必要とされるのは、主に公共交通機関のサービス終了後だ。現在のタクシー勤務形態からすれば、深夜1時過ぎに遭遇できるのは午後6時に出庫して翌朝3時頃に帰庫する「夜勤」か、1日21時間以内で乗車し1日置きに休みを入れる「隔日」のタクシーである。
深夜勤務は割増賃金が加算されるので、日勤よりは稼げるかもしれないが、慣れなければ過酷であり、数が少なくなるのは当然だ。タクシー配車アプリの普及により需要は増えたものの、返ってタクシーの少なさが可視化された状態ともいえる。
地方の「足りない」は、地元民の意見ではない。地方は世帯で複数人の運転免許所有者がおり、2台以上の自家用車を所有し、タクシーなしで移動できる手段を確保している。
地方でタクシーが足りなくて困るのは、観光客である。多くのタクシーは駅や大型ショッピングセンターのタクシープールにたまって、観光客を狙う。「流し」の車が少ないので、タクシー配車アプリで呼んでも近くにいないので来ない。だが観光需要は季節変動が大きい。繁忙期は全然足りないが、閑散期は余る。
つまり現状タクシーが足りないと思わせる主たる原因は、現在のタクシー運用に柔軟性や弾力性がないからである。だが正規雇用にこだわれば、無理な勤務や極端なシフトは許されないし、今いらないから休めとも言えない。ドライバーは決められた枠の中で働くしかない。
日本においてライドシェアが有望なのは、こうした変動する需要に対して、柔軟性のある供給ができそうだからだろう。観光シーズンだけ営業したり、終電終了後の1時間だけ働くといったことができれば、60歳定年後に年金受給が始まるまでの5年間だけ小遣い稼ぎにやってみようという人もそこそこいるはずだ。
一方利用する側としては、配車アプリで確実に呼べないならもうお話にならない。現時点でのライドシェア議論には配車システムの話が一切出てこないが、すでに世界的ライドシェア企業が各種特許を押さえている中、簡単に開発できると思っているのだろうか。
政府は観光地で「タクシーが足りない」を問題視しているが、まさか駅前にもっとタクシーが増えればいいぐらいの利用イメージではあるまいな。タクシードライバーより格下の雇用を作っただけで、「日本流ライドシェア」を終わらせないで欲しい。
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