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遠近両用メガネなのに見え方は“普通” AIを使ってパーソナライズする累進レンズ「Varilux XR」を体験した分かりにくいけれど面白いモノたち(3/7 ページ)

» 2023年12月26日 12時15分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 確かに、老眼鏡や累進レンズは、どこか作業用というか、静的な環境の中で使われることが前提になっている製品が多かったように思う。そして、その環境の中では、Varilux Xシリーズはとても優秀で、ほとんど不満点はない。先ほど挙げた欠点も、ほぼ移動中で起こりがちな問題だ。

 そして、静的な作業環境の中でも、明らかに視線移動は増えている。リモートやノマドなどの働き方の変化が、その状況に拍車をかける。累進レンズの大きなメリットの一つは、メガネを掛け替えなくてもよいということにあるはずで、ならば、移動中の視線移動に対応するというのは、生活の中での使用範囲を大きく広げることにもなる。

従来の累進度数レンズが想定している視線の動き(左)と、実際の視線の移動(右)、それぞれのイメージ図

 では、その移動時の視線移動に対応する累進レンズを、バリラックスはどのようにして実現したのだろう。

「今までの累進レンズは、度数変化を縦方向と横方向の直線的な動きを基本にして計算していきます。Xシリーズではもう少し複雑なことをやっていますが、それでも縦横という直線的な動きをベースにしていました。でも、実際に視線の移動をトラッキングすると全然縦横ではなくて、いろんな方向に瞬時に動いています。その動きに対応したレンズを作ろうとしたのがXRシリーズなんです」と井上さん。

 実際にXRシリーズのレンズを入れたメガネを掛けて生活していると、遠くを見るとか、近くを見るということを、ほとんど意識しないでもよくなったことを実感する。どうやら、今までは、近くを見ようとしてから見る、遠くを見ようとしてから見る、という感じで、自分の中で無意識に切り替えていたようなのだ。

「バリラックスは、元々、レンズを設計するに当たって、グローバルにモニターテストを行ってきました。X以前のデータもありますし、Xになってからは視線の動きのデータも蓄積されています。もちろん、XRシリーズの開発中にも、モニターテストを繰り返しています。それらの様々な症例をビッグデータとして活用するのですが、これまでは計算システムを使って、傾向値を得るのに使っていました。ただ、それでは個々人の視線の動きに合わせたレンズは作れません。そこで、AIを使います。その人のデータを個別にAIに入れる事で、膨大なデータから最適な設計を導くことができるという訳です」(井上さん)

デジタルツインを使ったシミュレーションは、こういう感じで行われている。日常的な動きと視線や頭の動きを大量にシミュレートすることでデータを蓄積。パーソナライズに役立てている

 バリラックスでは、バーチャルな3D環境下にモノを作り出してシミュレートする、いわゆるデジタルツインを活用している。これを使って、メガネの装用者を3D環境下に作って、度数や視線移動時の目の動かし方、利き目などの様々なデータをパラメータとして入力することで、日常での行動をシミュレートできるという。

「同じようなことは実際の装用テストでも行うのですが、AIを使うことで短時間で多くのシミュレーションが可能になりました。元となるビッグデータには、モニターテストだけでなく、バリラックスが様々な研究機関と一緒に行っている様々な生理学的な研究結果や学術データ、実際のオーダー情報や、オーダー時に行う検査のデータなども入っています。これらのデータから、装用者の視線移動をAIに予測させるわけです」(井上さん)

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