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遠近両用メガネなのに見え方は“普通” AIを使ってパーソナライズする累進レンズ「Varilux XR」を体験した分かりにくいけれど面白いモノたち(6/7 ページ)

» 2023年12月26日 12時15分 公開
[納富廉邦ITmedia]

「左右、度数の違うレンズを作ると、見えづらい部分(非点収差)が左右のレンズで重なるんです。その重なっている部分ができるだけ小さい方がクリアに見えるんですね。その重なっている部分では、利き目の反応速度が落ちるというデータがあります。利き目ではない方は見えづらくても反応速度は変らない。ならば、利き目を優先した設計にすれば、非点収差の影響が少なくできる、というのが、このオプションになります」(井上さん)

 つまり、XR track同様、視線の移動時や動く対象物に対する見え方を良くするためのオプションで、検査方法が違うということらしい。ただ、より細かく検査できるNVBの方がお勧めなのだけれど、検査がうまく出来なかった人向けに用意されているのがXR 4Dということなのだ。そのため、価格は同じに設定されている。

Varilux XシリーズとXRシリーズの見える領域の差は、これだけあるらしい。実際、両方を使っている筆者から見ても、このようなイメージになる。見える範囲が広いということは、それだけ風景や手元が自然に見えるということが実感できた

 そして、フル・オプションの最上位モデルが「XR Pro」。利き目とフィッティング・パラメーターとNVBとeyecodeの全てのオプションが入っている。

「通常、累進レンズのグレードというのは、収差の量、つまり見えづらい領域や歪む領域がどれくらい少ないかで決まるのが一般的です。ただ、XRシリーズの場合は、どのグレードでも設計は同じで、ただそれぞれの人に合わせていくという作り方をしています。なので、収差の量を減らすのではなく、その人の目が使わない部分に収差を置く、その精度の差がグレードの違いになります。収差の説明でよく言われるのは、お皿の上に砂があって、砂自体は必ずどこかに置かなければならない。さてどこに砂を置いて、どこをキレイにしましょうか、というのが、累進度数レンズの設計なんです。XRシリーズでは、まず、砂自体の量を極力減らした上で、実際にその人の目の動かし方が分かっていれば、確実にその人の目が使わないところに砂を持っていくことを考えて設計しています。よりグレードが上がるというのは、より、その人に合わせたレンズになるということなんです」(井上さん)

 今回、筆者はフル・オプションの「XR pro」を作って頂いた。そのため、検眼で度を会わせるのに使用したテストレンズでの見え方と、製品になったメガネの見え方が、全く別物のように違っていることに驚いた。テスト・レンズは基本設計こそXRシリーズのものなので、その特長である広い範囲で意識せずにモノが見えることや、周辺部、頭を動かした時の歪みの無さや見えにくくなるポイントの少なさといったことは十分体験できる。

 しかし、フィッティング・パラメーターを測るのも、NVBの検査をするのも、その後のことで、つまり、テスト・レンズはパーソナライズを全く行っていない状態。シリーズのベーシック・モデルである「XR fit」の体験にも届かないものなのだ。それだけに、十分にパーソナライズされた「XR pro」の見え方は予想を遥かに超えるもので、だから本当に驚いたのだ。

実際に、作ったメガネを掛けた筆者。何をするにも、このメガネだけでOKというのは、生活や仕事が本当に楽になった。今のところ、なんの不具合も感じずに一日中掛けて本を読み、ライブや美術展を観に行っている。絵もキャプションも楽に読めるのはありがたい

 筆者は数年前、階段を下りる途中で貧血を起こして階段から派手に落ちて前歯を3本失った。それ以来、階段を下りるのが怖くなり、手すりを持って、下を向いて慎重に下りるようになったのだけど、その際、累進レンズだと階段の段差がよく見えず、あまりに怖いので普段の生活には度数を抑えて手元くらいしか見えない近眼用のメガネを使い、取材や観劇などの際にVarilux Xシリーズを掛けるという生活になっていた。

 なので、今回、「XR」シリーズを使うに当たって一番心配だったのは、階段をスムーズに下りられるかということだったのだが、これが、近眼用のメガネ以上に安心して下りることができたのだ。

 しかも、近眼用メガネよりも足下がしっかり見えるので、とても苦手だった足下が薄暗い階段でも、怖がらずに下りることができるようになった。つまり、四六時中、このメガネを掛けて生活できるということで、これは本当にうれしかった。

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