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遠近両用メガネなのに見え方は“普通” AIを使ってパーソナライズする累進レンズ「Varilux XR」を体験した分かりにくいけれど面白いモノたち(2/7 ページ)

» 2023年12月26日 12時15分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 愛用しているVarilux Xシリーズは、40cmから70cm、腕を伸ばした距離を重点的に調整した視界を得るレンズとして開発された。もちろん、遠くも見えるし近くも見えるのだけれど、主に、腕を伸ばした距離での様々な作業にスムーズに対応できる設計になっているのだ。具体的には、PCを使いながら手元の書類を見るといった複合動作における視線の移動などのモニターテストを繰り返し、それによって、視線の移動に則した視界を実現している。

 その効果は、実際に仕事をしている時などに顕著に現れる。手元の資料を見て、PCの画面を見ながら入力して、壁に貼られたメモを見て、スマホで検索して、また入力といった作業時に、度数が切り替わっている感覚なしに、当たり前のように全てが普通に見える。もちろん、そのまま外出しても問題ない。私のような極端な近視でも、普通に生活できる。

 ただ、累進レンズである以上、避けられないいくつかの欠点はある。一つは、大きな視点移動時には、度数の切り替わりが見えてしまい、そこで視界が少し歪むのだ。そのせいで、階段を下りる時などで頭の動きに合わせて視界が揺れるので、階段の構造によっては段差が分かりにくい場合がある。また、視界の歪みを補正するために、モノがやや小さく見えてしまうというのも、多少気になる部分だった。

 しかし、カメラのレンズと違って、レンズ一枚で様々な場所にピントを合わせられて、さらに収差も吸収しなければならない眼鏡のレンズでは、累進屈折力の機能を持たせる以上、ある程度の欠点は当たり前だと思っていた。それこそ、多くの人は未だに、かつての、レンズの上の方が近視用、下の方が老眼用の度数になったものを遠近両用レンズだと認識しているような気がするのだ。

 以前に少し流行った、スイッチを押せばレンズの一部が老眼用のレンズに変わるメガネや、液体レンズによるオートフォーカスのレンズに注目が集まるのを見ていると、メガネをかけて生活するというのは、状況ごとに見え方を切り替えるのではないわけで、そこを解決しつつある累進レンズの進化は知られていないのだな、と思うこともあった。

累進レンズで生活するに当たっての問題点は、この3つが多いらしい。筆者もそうだが、実際、累進レンズで階段を下りるのは結構怖いのだ。他はほぼ問題がない「Varilux X」でも、真下を見ながらの移動は苦手だった

 そして新しいVarilux XRシリーズである。今回のコンセプトは、「マルチタスクと視線移動」なのだという。

 「例えばスマホとタブレットを同時に使って作業するといったことは以前からあったのですが、今や、例えばスマホで受け取る通知の数は1日平均80件にも及ぶそうなんです。そうやって、様々な場所に視線を動かす必要性が増している状況なんですが、このピョンピョンとあちこちに視線が動くという状況は、累進レンズを作る側としては、すごく難しいことを迫られているんです。運転時のカーナビと車外をほぼ同時に見る状況とか、歩きながらスマホで地図を確認するとか、そういう中で、人間の目は1日に10万回以上も視線移動を繰り返しています。それも、自動車や電車、歩行時も含め、移動中においての視線の移動が、一昔前に比べて、すごく増えています。そこで、そういった動いている環境下でも快適にメガネを使ってもらえたら、私たちの生活はもっと向上するのではないか、と考えて開発したのが、今回のXRシリーズです」とニコン・エシロール国内マーケティング部の井上陽奈さん。

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