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世界から取り残される日本の「電子・IT産業」 打開策は生成AIか JEITA資料で見る日本の“今と未来”小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2023年12月28日 13時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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「生成AI」は希望の光か?

 2023年には複数のチャット型生成AIが実用レベルで登場したことで、これを利用した社会変革の兆しが見えてきた。JEITAではこれを注目分野と見て、別途動向調査を行っている。

 需要額でみると、世界でも2030年までには年平均53.3%、日本国内でも47.2%の需要増が見込めると試算した。内訳を見ると、世界に対して日本の需要の特徴は、AIエンジンやアプリケーション開発よりも、ソリューションサービスがより多くの伸びを見せると予想している。

生成AI市場の利活用分野別需要額見通し(JEITA 注目分野に関する動向調査2023より抜粋)

 特に日本においては、団塊ジュニア世代が一斉に定年となり、超少子高齢化社会となる「2040年問題」に対応すべく、行政をはじめとする多くのサービスでDXへの取り組みが加速している。そこにAIがマッチしていくという見立てだ。

 内訳から見ると、世界需要に比較して大きく伸びるのは通信・放送、流通、社会インフラだと予測されている。例えば放送分野では、現在ハードウェアに頼っているシステムをクラウド上の信号処理に置き換え、同時に人力に頼ってきた運用および監視業務を自動化していく流れになるだろう。流通では、自動運転による効率化だけでなく、パーソナライズされた広告コンテンツ制作や商品提案の最適化などもAIが行なう未来が予測されている。

 こうしたAI活用の増加に際し、一番大きな伸びを見せるのがサーバやストレージなどのインフラだと見ている。AIの処理・実行のためには膨大なデータの保存・管理が必要となり、データセンターは今まで以上に巨大化するからだ。こうした製品群は、新規開発というよりは高品質レベルの量産が求められるものであり、そこに日本企業の強みが現われる。

生成AIの影響をうけるインフラの需要額見通し(JEITA 注目分野に関する動向調査2023より抜粋)

 JEITA小島会長が特に言及したのが、製造分野におけるAIの利活用だ。AIが製造ロボットと結びついて高度な自動化が見込める一方で、人間の極めて柔軟な作業能力はモノ作りには欠かせない部分である。だたそれが少子高齢化により、技能の伝承ができなくなってきている。つまり高度な技能を有する人の退職により、製造ができなくなるという懸念がある。

 そこでこうした技能や経験をデータ化し、次の世代への技術継承にAIを使っていこうという流れである。作業者のコパイロットとして業務支援を行うAIの在り方が提案されている。

 一方でこうした製造技術は各メーカーの秘中の秘であり、ノウハウの流出にはことのほか気を使う。筆者も工場見学などの機会も多いが、内部には撮影禁止はもちろん、そのような場所が存在すること自体も伏せなければならないようなエリアがある。

 こうしたノウハウのカタマリのような技術を、いかにしてデータ化するのか、ノウハウの流出を防止するかは大きな課題だ。そこでJEITAでは2018年に公開した提言「SDGs・Society 5.0実現のための人工知能の社会実装に向けて」を改定し、データの収集手順から整備、維持に至る、ノウハウ流出阻止のガイドラインを作成するという。

 現時点では生成AIは汎用的な用途に使われており、多くの可能性があることが理解されてきた。一方製造業で求められるのは、業務に特化したAIであり、今後2025年までにはこうした特化AIの個別開発が増加するものと見ている。

 生成AIは常に発達するものであり、完璧なものではないことを共通認識として、ハルシネーションやディープフェイク、潜在的著作権侵害等に対応するセーフティネットの構築とともに、誤ったデータや偏見を含むデータの出力を検出、制限する技術開発などが求められる。また各国でタイミングや方向性の異なる法整備に対応するべく、国際機関や多国間協定などの国際的な協力を通じて、AI社会実装が推進されるべきとしている。

 このようなJEITAの提言は、AIを実業として利用するためには避けられないものであり、国連の2030年に向けたSDGsや、日本が目指す超スマート社会の実現へと向かうための指針となるだろう。

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