このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英University of East Londonや米University of Texas Health Science Center at Houstonなどに所属する研究者らが発表した論文「Home-based transcranial direct current stimulation RCT in major depression」は、家庭で使用するヘッドセットを用いて脳に定期的に電気を流すことによるうつ病への効果とその安全性を検証した研究報告である。
大うつ病性障害(MDD)の新たな治療法として、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)がある。これは、クリニックや実験室での医療監督下で行うと効果があることを示している治療法である。tDCS治療は、頭皮の電極を通じて弱い電流を適用する非侵襲的な脳刺激の一形態である。
しかし、家庭でのtDCS治療の効果や安全性については、これまで詳しく調査されていなかった。この研究では、英国と米国で、MDD患者を対象にした家庭でのtDCS治療のランダム化比較試験を実施した。
試験では、中等度から重度のうつ病を持つ174人を無作為に選び、スウェーデンのFlow Neuroscience社が製造したヘッドセットからの刺激を受けるグループと、偽の刺激を受けるグループに割り当てられた。参加者はオンラインビデオ通話を通じて、自宅でヘッドセットの使用方法を学び、治療を受けた。
10週間の治療期間(最初の3週間は週5回、その後の7週間は週3回のtDCSセッション)をへた後、実際に治療を受けたグループは、偽の治療を受けたグループと比べて、より大きな改善を示した。この改善は、抗うつ薬を服用していない参加者だけでなく、定期的に抗うつ薬を服用している参加者にも顕著であった。
ただし、実際の刺激を受けた人の中には、皮膚の赤みや刺激を報告するケースが多く見られた。また、乾燥したスポンジを使用したことで火傷を負った2人の参加者もいた。
執筆時点で、該当するヘッドセットはWebページで459ユーロ(約7万円)程度で販売中。
Source: Rachel D. Woodham, Sudhakar Selvaraj, Nahed Lajmi, Harriet Hobday, Gabrielle Sheehan, Ali-Reza Ghazi-Noori, Peter J. Lagerberg, Maheen Rizvi, Sarah S. Kwon, Paulette Orhii, David Maislin, Lucia Hernandez, Rodrigo Machado-Vieira, Jair C. Soares, Allan H. Young, Cynthia H.Y. Fu. Home-based transcranial direct current stimulation RCT in major depression. medRxiv 2023.11.27.23299059; doi: https://doi.org/10.1101/2023.11.27.23299059
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