「先生の要望が、淡いピンクとか白といった明るめの色が、黒や青、茶色といった濃くて暗い色の上でしっかり発色してほしいということだったんですよ。それはかなり難しいことで、白や淡いピンクを塗った上に青い線や黒い線は描けるんですけど、その逆だと発色が分からなくなってしまいます。それはつまり、明るい色がちゃんと暗い色の上で発色すれば良いということだと考えて、明るい色はオイルパステル寄りの柔らかめの配合にして、暗い色はクレヨン寄りの固めの配合にしたんです。重ねて塗った時に、ちゃんと見えるように、色によってちょっとずつ調整して変えています」と三浦さん。
聞いてしまえば、確かにその方法しかないと思える、とても合理的な方法だけれど、これはかなりの発想の転換が必要なアイデアだ。
「濃い色なら、下の薄い色が柔らかくても色が見えるので、それより全然見えない明るい色を見えるようにしようということですね。どうしても同じ配合の中ではできないということは分かっていたので、同じ製品の中で配合を変えるしかありませんでした。今まで例の無いことなので、上司にも変えていいのか相談しました。そういう意味では、結構挑戦的な商品になったと思います」
色ごとに配合を変えていても、書き味が大きく変わらないように作って、柴崎先生にも「これくらいなら気にならない」とのお墨付きをもらったそうだ。実際、言われて気をつけて描き比べると分かるという程度の差で、逆にいえば、それだけの差で重色を実現したことが凄いのだ。
「赤が割とクレヨンとオイルパステルの中間くらいで、緑も割と中間寄りですね。白や黄色は、単独で使うより、重ねるか混ぜて中間色を作るかという時に使う色なので、混ぜやすく、かつ下の濃い色がしっかり層になってくれていれば、混ざらずに上に乗ってくれるというところを調整しながら作っていきました」と三浦さん。しかも、考えなければならないのはそれだけではない。
「ワックスもオイルも、色んな種類やグレードが存在するので、どの色には、どのグレードのものを使うのが一番向いているのか、描き味が硬くなり過ぎないのはどれなのか、というのを一個ずつ色ごとに試してみて、一色作って良さそうなのができたら、それを他の色に展開して、でもそのままでは上手くいかないので、その色ごとにまたどうするかというのを調整しながら詰めていきました。ただ、画材を作る場合、これくらいの調整はどこもやっているんじゃないかなと思いますよ」と三浦さんは笑う。
製品名は「アートクレヨン」なのだけど、滑らかに描けるものという柴崎先生の要望もあり、どちらかというとオイルパステル寄りの製品になったと三浦さんは話す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR