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「王様戦隊キングオージャー」終幕 “無謀だった”という制作の舞台裏、上堀内監督に聞いた(1/5 ページ)

» 2024年02月25日 10時30分 公開

 「王様戦隊キングオージャー」が最終回を迎えた。2023年3月から約1年にわたって放送された特撮作品だが、綿密なストーリー展開に加え、最新テクノロジーをふんだんに取り入れたことで「背景CGのクオリティーが高すぎ」「予算は大丈夫なのか?」など、X(旧Twitter)で話題になったことも記憶に新しい。

(左手前から)ソニーPCLの遠藤和真氏、ラインプロデューサーを務めた東映テレビ・プロダクションの佐々木幸司氏、「王様戦隊キングオージャー」の監督を務めた上堀内佳寿也氏、ソニーPCLの増田徹氏

 1年間、毎週放送する特撮作品でこれだけのハイクオリティーな映像表現ができた理由には、「バーチャルプロダクション」と「ボリュメトリックキャプチャー」の存在が欠かせない。

 バーチャルプロダクションとは、バーチャル背景とその前景にいる被写体を一緒にカメラで撮影することで、リアルタイムに合成する撮影手法。近年では、LEDを敷き詰めた巨大スクリーン(LEDウォール)を使う方法も増えている。LEDは輝度が高く、CG合成でよく使われる「グリーンバック」では難しい反射や映り込みが再現できる他、天候やスケジュールに左右されやすい外ロケ撮影よりも制約が少なく、コロナ禍を経て一気に拡大した。

 また、バーチャルプロダクションの一種に「インカメラVFX」と呼ばれる仕組みもある。物理カメラの動きをトラッキングし、ゲームエンジン「Unreal Engine」などで作成した仮想空間内のバーチャルカメラとリンク。バーチャルカメラが映す仮想空間を背景としてLEDウォールに映すことで、パンやズーム、動きのあるアングルを狙っても、それに合わせて背景が変化。奥行きや立体感のある、本当にその空間にいるかのように撮影できる。

ソニーPCLの「清澄白河BASE」に設置されている巨大LEDウォール

 ボリュメトリックキャプチャーは、膨大な数のカメラを取り付けた円形のスタジオを使った3D撮影を指す。実写でありながら360度の3Dデータを撮影できる。映像も収録でき、例えばダンサーの動きを1人ずつキャプチャーすれば、バーチャル上で一堂に踊らせ、それをバーチャルカメラで“再撮影”することができる。360度データなのでアングルも自在だ。

「清澄白河BASE」が保有するボリュメトリックキャプチャースタジオ

 ただ、毎週放送されるテレビ番組で、こうした先端技術をフルに活用した事例はこれまであまりなかった。しかし「僕らにはもうこれしかなかった」と語るのは、キングオージャーを監督した上堀内佳寿也氏。なぜ、同作品はバーチャルプロダクションとボリュメトリックキャプチャーに全てを賭けることになったのだろうか。

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