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「王様戦隊キングオージャー」終幕 “無謀だった”という制作の舞台裏、上堀内監督に聞いた(4/5 ページ)

» 2024年02月25日 10時30分 公開

「外ロケ」と「バーチャルプロダクション」どう使い分けた?

 バーチャルプロダクションをフル活用したキングオージャーだが、ロケ撮影が全くなかったわけではない。

 「割と感覚的なところは大きい」としつつも、「林とか、かなり自然物が多いシチュエーションで撮影したい場合は、やっぱりロケーションに出ちゃいます」「海や遠景なら(バーチャルプロダクションでも)良いんですけど、清流だとアセットで組み上げるのは難しい」と上堀内氏は語る。

 一方で「清流って近郊にないんですよ。やはりコストの話があって、その時は3〜4人で清流の下地になる映像を山奥に撮りに行って、ソニーPCLさんのLEDウォールで撮影したんです」「清流の中にいるという設定だったので、あまり動きの激しくないシーンだった。じゃあ水の中でバチバチにアクションしますとなったら、それはロケーションに出ると思います。ただ、『こうなったら完全にロケーションだな』となる前に、もう一段階ある感じですね」(上堀内氏)

 下絵の撮影時に両プロデューサーと取り決めしたように、バーチャルプロダクションの活用はコスト管理だけでなく、スケジュール管理にとってもプラスに働いた。

 「スケジューリングであったり、コスト面が分かりやすくなりました。すごく見えやすくなるというか、都合がつきやすくなる」「雨天というのもなくなってくるので、キャスティングの融通も利くようになってきます」(上堀内氏)

 とはいえ、仕組みをゼロから作っていく必要があったため、全てで業務を効率化できたわけではない。「こんな大規模にバーチャルプロダクションを使うのが初めてだったので、その構築と、バーチャルプロダクションを使用して撮影を進めていくということの構築でバタバタはしました」(同氏)

最後のチャレンジは「ロボ戦」に

 最終話では、宇蟲王こと「ダグデド・ドゥジャルダン」と、巨大ロボ「ゴッドキングオージャー」のバトルが繰り広げられたが、このシーンは全面ボリュメトリックキャプチャーが使用されており、自由度の高いカメラアングルを実現している。

最終話の宇蟲王こと「ダグデド・ドゥジャルダン」と、巨大ロボ「ゴッドキングオージャー」のバトル(画像提供:ソニーPCL)

 「キングオージャーには、宇宙も1つの大きい部屋という設定があります。箱型だけど縦横無尽に動けるというものを番組の途中で作ったので、最終決戦がこのフィールドになるのは分かっていました。そこで縦横無尽なカメラワークを駆使し、いままでの特撮シリーズで見たことのないロボ戦が表現できたらいいなと」(上堀内氏)

 「キャラクターのアクションってボリュメトリックキャプチャーにすごく向いていると思ったんですよ」「どうしてもモーションキャプチャーの上にCGのテクスチャーを被せるパターンだと、なかなかCG感が抜けない。(ボリュメトリックキャプチャーなら)人間の動き、ちょっとした機微を表現できるというのを39話で確信しました。だから50話(最終話)は割と細かくやっていこうと」(同氏)

 そのロボ戦に登場するゴッドキングオージャーのボリュメトリックキャプチャー撮影だが、特撮ロボならではの大変さがあったという。

 「このロボがでかすぎて……」と増田氏。キャプチャー用のスタジオは高さ3mまで想定して作られているが、ゴッドキングオージャーの高さは3m以上。武器を上げるとそれ以上に高くなってしまう。

スタジオを超えてしまったという「ゴッドキングオージャー」(画像提供:ソニーPCL)
3Dデータ化した「ゴッドキングオージャー」(画像提供:ソニーPCL)

 さらに「ボリュメトリックキャプチャーでは、1カ所を少なくとも4〜5台のカメラで撮らないといけないんですけど、ロボがゴツゴツしていて顔も奥に引っ込んでいる。撮れても2台とかで、そうすると形状が出せなくなってしまう」(増田氏)

 清澄白河BASEのボリュメトリックキャプチャースタジオは円形のスタジオに100台以上のカメラが囲っており、これ以上の全体的な増設は難しかったものの、顔を重点的に捉えるためのカメラを追加したことで、奥まっていた顔のディティールを確保した。スタジオから飛び出してしまう部分は、カメラの位置を変えることで対応した。

 「ロボがスタジオに入るか事前に確認してもらって、『入りました』というので当日来てみたら『カメラの位置を変えました』といわれて」「本当にすみません……と」(上堀内氏)

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