企業による生成AIの活用が加速している。エンターテインメントやメディア業界も例外ではなく、コンテンツの制作やその効率化を目指す活用事例が出てくるようになった。生成AIベンダーも同業界での活用には注力しており、例えばメディア業界向けテクノロジーの見本市「Inter BEE」でも生成AIを扱う展示が散見された。
中でもAWSは業界別ソリューションを強化する施策の一環として、エンターテインメントやメディア業界への注目を続けているという。2023年11月末から12月にかけて開催した年次イベント「re:invent 2023」でも、同業界のAWS活用事例や業界向けソリューションなどの情報を扱うセッションを複数実施していた。
米AWSの幹部であるステファニー・ローン氏(メディア&エンターテインメント(M&E)部門ソリューションアーキテクチャーディレクター)は、同業界における生成AI活用について「大きなテーマの一つになっている」と話す。
一方、エンターテインメント分野における生成AIの活用は、クリエイターなどからの反発の声も少なからずある。代表例は全米映画俳優組合と全米脚本家組合によるストライキなどだろう。AWSは一連の動向と市場開拓の現状をどうとらえているのか、ローン氏に聞いた。
――メディア・エンターテインメント業界向けソリューションの視点で、生成AIの進化をどう評価していますか?
ステファニー・ローン氏(以下、ローン) 生成AIの進化のスピードには私たちも驚かされており、M&E部門でも絶対的に重要なテーマです。業界では目下、クラウドベースのライブコンテンツ制作、収益性の向上、そして生成AIの活用が、テクノロジー活用における“三大テーマ”になっていると感じます。
――AWSの生成AIサービスである「Amazon Bedrock」も、複数のLLMのファインチューニングが可能になるなど、新機能が出てきています。メディア・エンターテインメント業界でも、Bedrockを活用したソリューションの構築などは進んでいますか?
ローン メディア・エンターテインメント業界向けの具体的な生成AIソリューションはこれから徐々に世に出していく段階です。ただ、大きな方向性として、重労働だけれども画一的な作業からユーザーを解放し、かつ彼らの創造性を高める支援をするために生成AIを活用できると考えています。
例えば「ロトスコープ」(実写を基にしたアニメーション制作)で多くの手作業が不要になるなど、クリエイティブなプロセスを広く支援できるソリューションを提供していく計画です。
――米国では、全米映画俳優組合と全米脚本家組合がストライキを起こしました。生成AIが自分たちの権利を侵害しないようにしてほしいというのが彼らの要求の一つでしたが、これについてはAWSとしてどのように考えますか?
ローン AIをどのように受け入れるべきか、業界として見極める必要はあるでしょう。AWSは業界の方針に従っています。
一方で、創造性の向上を支援する多くの新しいテクノロジーが既に受け入れられ始めており、生成AIについても、そのメリットを最大限享受するための取り組みを進めている企業はメディア・エンターテインメント業界でも増えているのは間違いないです。
――AWSのサービスでは、どんな領域のソリューションが特に成長しているのでしょうか?
ローン 収益向上のためのソリューションですね。まず、多くのユーザーは、既存の(映像系)アーカイブやコンテンツを収益化できるようにしたいと考えています。
広告付きの無料ストリーミングチャンネルで配信したり、広告付きの無料TVイベントで放送したり、とにかく現在保持しているライセンスや権利からより多くの収益を得るための方法を模索しています。クラウド上で一元化されたメディア運用やアーカイブの仕組みには非常に大きなニーズがあります。
エンドユーザーの体験を改善するためのソリューションも大きな期待を集めていると感じます。例えば顧客データや行動データなどを統合的に管理する「Customer 360」などです。メディア・エンターテインメント企業の多くが収益維持のために解約の防止に注力しており、そうした取り組みに使われているようです。
広告施策を支援する「Advertising」も重要なピースです。米国市場ではテレビやラジオなどのリニア広告とデジタル広告の融合が重視されるようになっており、双方を組み合わせたパッケージを広告主に販売しやすくなるAdvertisingが注目されていると感じています。
――メディア・エンターテインメント業界のクラウド活用について、地域的な特色はありますか?
ローン 米国やカナダでは、メディア・エンターテインメント企業でクラウドテクノロジーの採用が進んでいます。放送局の多くはビジネスの変革を迫られており、インフラをモダンな環境に移行することに合わせて取り組んでいる企業が多い傾向にあります。
欧州で重視されているのは持続可能性です。温室効果ガス排出量削減に対するプレッシャーが非常に大きくなっています。そうした観点からコンテンツ制作などをリモートで進める技術に対するニーズが大きい(通勤やオフィス運営で排出される温室効果ガス削減へのニーズが高い)と言えます。日本を含むアジア太平洋地域では、持続可能性に加えてコスト最適化への関心が高いユーザーが多いですね。
共通して言えるのは、メディア・エンターテインメント企業にもクラウドを活用してビジネスを再構築するための新たなスキルが必要になっている点です。そのための教育に力を入れようとしているユーザーも一般的になっている印象です。
――日本市場でのメディア・エンターテインメント業界向けビジネスの状況はどう見ていますか?
ローン 日本の放送局なども変化に対する関心は高いと思います。Inter BEEでも、変革に迫られているメディア・エンターテインメント企業との積極的に対話できました。
相当な数の教育・トレーニングのセミナーも実施していますので、今後より多くのユーザーがAWSを積極的に活用してくれるようになると期待しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR