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耳をふさがなくても「普通に聴ける」 動向が変わりつつある“ながら聴き”の世界小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2024年04月11日 09時30分 公開
[小寺信良ITmedia]
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低域特性が大幅に改善した2023年

 2023年に入ると多少製品は落ち着きを見せるが、Shokz「OpenFit」は、これまで骨伝導ドライバのネックバンド式製品しか作ってこなかったShokzが、初めてイヤーフック型のダイナミックドライバで製品化してきたものだった。

「OpenFit」

 耳のそばでダイナミックドライバを鳴らすという方式のイヤホンはすでに前年に多数登場したが、どれも低域の不足が課題であった。音の大きさは音声波の振幅の大きさで決まるが、人間の耳は低域の特性が低いので、低域を持ち上げないとバランスよく聞こえない。カナル型などは耳の中に音導管をつっこむ形で低域を届かせるわけだが、距離が離れてしまうと直進性の低い低音から減衰してしまう。

 OpenFitはこの欠点を、逆位相を利用して外部の音漏れを抑制することで、相対的に耳穴方向への音圧を上げるという方法で解決した。もちろんドライバ自体も音圧が稼げる特殊構造のものを搭載している。

 逆位相を使って音漏れを抑制するという考え方は、2022年のNTTソノリティが「nwm MWE001」というイヤホンで大々的にアピールしたのが最初となる。ただこれも例に漏れず、低域の量感に課題があった。

「nwm MWE001」

 2023年も後半になると、各社から出されるながら聴き系はほぼダイナミックドライバ型となり、8月の「Oladance OWS Pro」 、10月のJBL「JBL SOUNDGEAR SENSE」、11月の中国Anker「Soundcore AeroFit Pro」あたりになると、もう低域が不足する感はなくなった。

 むしろこれ以降は、小型化やフィット感といったところが勝負になる。その点ではOladance OWS Proの美しいカーブを描くデザインは、ウエアラブルデバイスとしての新しい方向を示しているように思われる。

 今年に入っての注目製品としては、Bose 「Ultra Open Earbuds」と中国Huawei「FreeClip」がある。どちらも前年まではほとんど製品がなかった、イヤーカフ型でリリースしてきたところが興味深い。

 すでに低域の問題は解決済みで、さらにBOSEは独自技術のイマーシブオーディオ機能を搭載、ヘッドトラッキングにも対応した。もはやながら聴き系は、優れた装着性、開放感のある音像、バランスの取れた音質と、一般のイヤホンと同等の機能を持つに至った事になる。

 これまでの音楽リスニングを考えると、スピーカーには遮音性はないが、周囲に盛大に音が漏れるという弱点がある。近くに同僚や家族が居て別のことをしているという状況では、なかなか使いづらいものとなった。

 イヤホン・ヘッドホンを利用するなら、ある程度遮音されるのが前提だった。それ故に、街から多くの音が入りすぎる都会では、イヤホンをしながら歩くということが広く受け入れられた。アメリカの若者の間でワイヤードのイヤホンが流行したのは、周囲に対して今自分は世間を隔離しているということをアピールするためであった。

 コロナ禍独自のニーズが発端となって大きく成長したながら聴き系イヤホンは、周囲からの隔離を望まないがパーソナルに音楽や音声コンテンツを楽しみ たいという、日常生活の中で音が付いてくる第三の音楽の聴き方を創造したとも言える。

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