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ニッチだが奥深い「映像伝送」の歴史 アナログからデジタルまでの変遷を総ざらい小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/4 ページ)

» 2024年06月20日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 ソニーは1976年にヘリカルスキャン方式の1インチVTR、BVH-1000を開発、2年後に発売したが、この頃にはすでにBNC端子が使用されていた。

1978年発売のソニー BVH-1000(資料提供:ソニー株式会社)

 コンシューマー用に開発され、のちにプロでも使用されたUマチック VTRは、3/4インチ幅のカセット型テープを使用するため、輝度と彩度を分けて記録する、Y/C分離方式となった。この方法論はのちに、S-VHSの伝送方式として「S端子ケーブル」となるわけだが、Umatic VTRはアナログ・コンポジットシステムへの互換性を重視して、コンポジットケーブルで運用された。

初期の放送用UマチックVTR、「BVU-200」(資料提供:ソニー株式会社)

 潮目が変わったのが、ソニー「ベータカム」の登場以降である。ベータカムの記録はY/B-Y/R-Y という色差方式で、カメラからのRGB出力にマトリックス変換をかけて信号量を減らし、伝送する。記録する際にはさらにB-Y/R-Yを時間圧縮する。つまり2フレームに1回しか記録しないのである。

スタジオ向けベータカムデッキ「BVW-40」(資料提供:ソニー株式会社)

 ベータカムはアナログ・コンポジット入出力もできたが、3本の等長ケーブルを使う事で、Y/B-Y/R-Yの信号をそのまま伝送する、アナログ・コンポーネント入出力もできた。コンポーネント原理は現在もなお使われ続けている技術なので、非常に重要なターニングポイントである。

 アナログ・コンポジットよりも色再現性が優れているとして、スイッチャーもアナログ・コンポーネント対応のものが登場し、結線全てをアナログ・コンポーネントで行う編集システムも稼働した。

 ただ、通常のシステムに比べてケーブル量が3倍になるほか、パッチベイなどで結線を入れ替える際にも毎回3本の長さが同じのケーブルを用意しなければならないので、システム運用は煩雑であった。なぜ同じ長さでなければならないかというと、ケーブル抵抗値が微妙にズレると、色がズレるからである。

 ベータカムには別途CTDM(Copressed Time Domain Multiplex)という伝送方式もあった。これはテープに時間圧縮記録された状態を復元せず、そのまま伝送するというもので、ベータカム同士を専用のマルチケーブルで接続し、ダビングに使用する。時間軸の伸張・再圧縮のプロセスを踏まないので、ダビング特性が向上する。だがそもそもテープの単純ダビングが必要なケースがあまりなかったので、運用例はそれほどなかったのではないかと思う。

 なおフロントパネルにはこれらの入力切り替えスイッチが付いているが、出力切り替えスイッチはない。全部の出力端子からは常時信号が出ているからである。このためベータカムは、コンポーネントシステムとコンポジットシステムで共存利用することができた。

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