スクラビルドで生まれたアイテムは、見た目に不具合があると、くっつき方が想定と異なるものになる恐れがあった。さらに、元のアイテム名を組み合わせる命名法則に沿うと、見た目と名前が一致しなくなってしまうケースもあり、それぞれ修正したり、例外を設けたりする必要があった。
例えば「岩と剣を組み合わせたら、岩に剣が刺さったような見た目にしたいのに、剣に岩が乗っているような見た目になってしまうので修正する」ケースや、「『白銀ライネル』というモンスターの角と剣を組み合わせたら、命名規則的には『白銀ライネルハンマー』になるが、見た目がハンマーっぽくないので『白銀ライネル粉砕剣』に修正したい」ケースなどだ。
ただし、この確認作業は手間が膨大だった。開発機でゲーム内のカメラを回しながら確認し、アイテム一覧画面に移動して名前がおかしくないかチェックしなくてはいけない。確認のタイミングは、アーティストが武器やアイテムの見た目を作成・変更した後や、プロジェクトの区切りなど。確認はある程度数を絞って行う方針だったが、それでも都度チェックするのは負担が大きく、見た目の変更がためらわれる事態にもつながりかねなかった。
そこで、ゲーム開発を支援するツールやそのインフラを手掛けるゲーム開発インフラチームは、スクラビルドで生まれたアイテムをあらかじめ撮影し、その写真を確認することで、おかしな点がないかチェック可能な仕組みを整えた。
とはいえ、ただ画像がフォルダ内に並んでいるだけでは、チェックの手間はさして減らない。よりチェックを便利にするために、廣瀬さんはあるツールを使うことにした。それは、アーティストがアイデアやスケッチを記録するために使っていた社内の画像掲示板だ。
画像掲示板はもともとゲーム開発インフラチームが開発したもの。ここにスクラビルドで作成できるアイテム画像をアップロードしたり、一覧化や絞り込み検索をしたりできるようにした。気になった点があったときは、対応が必要な旨を示せる仕様に。画像掲示板のボタンを押すだけで、ゲーム上に画像のアイテムを出現させたり、キャラクターに装備させたりする機能も用意した。これにより「まずは画像で確認し、気になる点があればそのままゲーム内で確認できる」フローを実現したという。
この改善には思わぬメリットもあった。画像の撮影・投稿は見た目を変更したタイミングで毎回行う決まりで、履歴も残せた。この履歴から、バグなどの問題がいつから起こったか追えるようになったという。これにより、12万通りの組み合わせのチェックは「現実的な範囲に収まった」(廣瀬さん)。
この評判はプロジェクト内で広がり、他の用途でも使われるように。例えば風による衣装の揺れの挙動確認にも使われたという。余談だが、廣瀬さんらゲーム開発インフラチームでは、開発者の悩みを直接解決するのではなく「開発者が自由に発明できる仕組みを作る」方針を取っていたため、利用の幅が広がったことも想定の内だったとしている。
スクラビルド含むTOTKの開発においては、藤林さんなどディレクター陣ではなく、廣瀬さんたちのチームが発案した仕組みが役立つこともあったという。その最たるものが「ルピー掲示板」だ。
ルピーはゲーム内通貨の名前。もともとゲーム開発インフラチームが作っていた掲示板を独自にカスタマイズし、開発サイクルの改善に活用したという。
TOTKでは、(1)新しいアイデアやシステム、仕様を発案する、(2)メンバーに説明し、理解してもらう、(3)実装する、(4)区切りごとにメンバー全員でプレイし、より良くできる点や気付きを探す、(5)得た情報を集約する、(6)集約した情報を精査する──という開発サイクルを回していた。ただ、特に(4)〜(6)は膨大な情報を収集・集約する必要があり、効率化が求められた。
そこで役立ったのがルピー掲示板だ。ルピー掲示板は、(4)で得た気付きを投稿できる場所。「良かった」もしくは「気になった」点についてコメントでき、誰が投稿したのかも明記される。対応がなされたり、対応の方針が定まった場合は担当者や関係者などがその旨を入力するため、掲示板をそのまま作業管理ツールや、精査時の資料として活用できたという。
最大の特徴は投票機能だ。他の人の投稿で、共感できるものがあった場合、一人1ルピー(1票)を投票できる。これにより、共感した人がどれだけ多いか可視化する仕組みだ。ルピーが多い順に並べ替えることで、共感する人が多い投稿を絞り込むこともできた。
「投稿について、どのように議論が行われ、何が取捨され、どういう経緯で結論が出たか、チームメンバー全員がダイレクトに閲覧できたので、透明性や納得度が高く、伝言ゲームのようにならない正確な情報共有ができた」(藤林さん)
ただ、この掲示板には「誰のどんな投稿がルピーを獲得したか」が誰にでも分かってしまうため、ともすれば作業に携わったメンバーを委縮させてしまうリスクもあった。
そこでチームでは「意見ではなく情報を書く」といったルールを設け、これを抑止したという。例えば「トゲを食らってゲームオーバーになった、理不尽だった」はNG、「トゲを食らってゲームオーバーになったのは理不尽に感じた。なぜなら、右から見ていたときはトゲが見えたのに、左からは見えず、不意打ちのようになったから」はOKという具合だ。
他にも「認識が変わったら追記すること」「掲示板では議論はしない。同じ事象に対して別の意見があるなら、それは別途投稿すること」というルールも設けたという。スクラビルドについても、ルピー掲示板を発端として機能改善があった。例えば、当初は実際にアイテム同士をくっつけるのに5つの手順が必要だったが、面倒という意見が共感を集め、3手順に短縮したという。
「スクラビルドができるに当たっては、アイデアの発案はもちろん、事前の問題解決という準備を行い、ゲーム開発インフラ側でもチェックの効率化という準備を行い、実装する人に落とし込んでいった。これらの準備を有効に運用するために、発案側はチーム文化の形成を、ゲーム開発インフラ側はサービスの用意という準備のための準備をしていた。今回の話はスクラビルドができるまでの全てではないが、ゲーム開発の一助となれば幸い」(藤林さん)
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