このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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韓国の延世大学校などに所属する研究者らが発表した論文「Dark states of electrons in a quantum system with two pairs of sublattices」は、物質において特定の条件下で観測不可能な電子状態を発見した研究報告である。
物質の電気伝導性や光の反射率といった性質は、主に電子の動きによって決まる。これらの性質を調べる一般的な方法が「分光法」であり、物質に光を当て、跳ね返ってきた光のスペクトルを分析することで、どの周波数が吸収または反射されたかを明らかにする。
しかし、分光法では物質の全てを知ることはできない。スペクトルに現れない電子が存在し、このような量子状態が光子と相互作用せず、分光法で検出できない電子の状態を「暗黒状態」(Dark states)と呼ぶ。
研究チームは、二セレン化パラジウム(palladium diselenide、PdSe2)結晶を用い、凝縮系物質において暗黒状態を発見した。この結晶は、単位格子の中に2対4つの副格子(格子の中に存在するもう1つの周期構造)が存在するユニークな構造を持つ。これらの副格子は、結晶全体にわたって規則的に繰り返され、互いに特殊な対称性を保っている。
角度分解光電子分光法を用いた測定の結果、価電子帯が、使用する光子エネルギー、偏光、散乱面にかかわらず、ブリルアンゾーン(結晶中の電子の動きを表す領域)全体にわたって事実上観測不可能であることを発見し、この観測結果が光と相互作用しない状態である暗黒状態の存在を示唆した。
この発見は同じ構造を持つ他の物質にも当てはまる可能性があり、これまで説明できなかったさまざまな現象の理解につながるかもしれない。例えば、銅酸化物(超電導体)、ハロゲン化鉛ペロブスカイト(太陽電池材料で注目されている)、密度波系などの物質で観察された現象が、この暗黒状態のメカニズムによって説明できるかもしれない。
Source and Image Credits: Chung, Y., Kim, M., Kim, Y. et al. Dark states of electrons in a quantum system with two pairs of sublattices. Nat. Phys.(2024). https://doi.org/10.1038/s41567-024-02586-x
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