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国立天文台、宇宙を占める「暗黒物質」の“地図”をAIで作成 スパコンによるシミュレーションで観測ノイズを除去

» 2021年07月05日 20時17分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 国立天文台と統計数理研究所らの研究チームは7月2日、宇宙にある「暗黒物質」(ダークマター)の“地図”をAIで作成するシステムを開発したと発表した。暗黒物質の分布が分かれば、暗黒物質の正体解明に役立つ可能性があるという。

暗黒物質の地図のイメージ図

 暗黒物質は光を発しないため直接観測できないが、重力を持つため、時空をゆがめる「重力レンズ」という特徴を持つ。このゆがみは遠方の銀河を観測する際にレンズの役割を果たし、銀河の形を大きくしたりゆがめたりするという。この性質を利用し、観測した銀河のゆがみから暗黒物質の量を見積もって地図にする「レンズマップ」の研究が今まで進められてきた。

 しかし、暗黒物質が少なくゆがみの少ない銀河や、形状が測定できない暗い銀河、ゆがむ前の形状が分からない銀河など、観測データの精度を下げるようなノイズが入る場合も多くあった。データの精度を上げるには観測データの数を増やすことも有効であるが、限られた観測時間で臨機応変に観測領域を増やすのは難しいという。

 研究チームは、AIを使って観測ノイズを除去する手法を開発。国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」を使い、データのノイズを再現したレンズマップとノイズのないマップを2万5000組生成。ノイズがあるマップからノイズのないマップを作る生成AIと、画像が本物かどうかを判別するAIを競わせることで生成精度を上げた。この生成AIに、ノイズのある生のマップを入力することで、ノイズのないマップの作成に成功したという。

研究で用いられた「Generative Adversive Networks」(GAN、敵対的生成ネットワーク)の概念図

 今回生成できたマップの大きさは、星座などの大きさを表す「平方度」で約20平方度。天球全体は約4万1000平方度なのでごく一部の領域に当たるが、研究チームはすばる望遠鏡の観測データにこの手法を適用し、1400平方度のマップを作るとしている。こうしたノイズを取り除いたマップを作ることで、暗黒物質の少ない銀河などの調査が可能になるという。

 研究を主導した白崎正人助教授は「天文学の研究でAIを使った事例はまだ少ない。今後さらに“天文学×AI”の複合領域がポピュラーになればさらなる研究の進展も期待できる」と話した。

 この研究成果は、イギリスの天文学術会誌「英国王立天文学会誌」の2021年6月版に掲載された。

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