山梨大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などで構成する研究グループは6月14日、国際宇宙ステーション(ISS)に5年10カ月間保存したマウスのフリーズドライ精子から、健康なマウスが多数生まれたと発表した。保存精子を使った生殖が宇宙でも可能だと初めて示した結果という。
今後、人類が月面基地やスペースコロニーなどで永住する時代に重要になる、保存精子を使った宇宙での人工授精の可能性が拓けたほか、フリーズドライ精子は宇宙空間でも理論上200年間保存できるため、地球の生物の精子を月に長期保存しておくといった用途も考えられるとしている。
新鮮精子ではなくフリーズドライ精子なら、液体窒素を使わなくてもISS内で長期間保存でき、小さくて軽いため打上げコストが安く、難しい実験を宇宙飛行士に依頼する必要がないといったメリットがある。
今回、受精率・出産率の高いマウス12匹を選び、フリーズドライ精子を作成。半分はISS実験棟「きぼう」内の冷凍庫で9カ月間(以降1年間)、2年9カ月間(同3年間)、5年10カ月間(同6年間)保存し、もう半分は地上(茨城県・JAXA筑波宇宙センター)で、宇宙用と同温度・同期間冷凍保存した。
フリーズドライ精子を用いた受精卵を宇宙から持ち帰り、顕微授精で受精卵にしてメスマウスに移植したところ、宇宙で6年保存した精子から合計168匹の子が生まれた。いずれも外見は正常で、遺伝子解析でも異常はなかったという。一部のマウスは性成熟後に交配し、健康な子・孫が生まれることも確認した。子の発育率は宇宙3年・6年、地上3年・6年保とも12%ほどで、有意差はなかったという。
並行して地上で、フリーズドライ精子と新鮮精子にX線を照射したところ、被ばく量が増えるにつれフリーズドライ精子のDNA損傷度も高まったが、放射線耐性は新鮮精子の10倍あることも分かった。ISSで6年保存した精子の宇宙放射線被ばく量は、地上保存区の約170倍あった一方で、DNAダメージや受精能力は、保存期間や宇宙区と地上区で差がなかった。
将来、人類が宇宙空間に永住する時代が到来した際、新天地で地球の動物種を維持するため、多数の個体を新天地へ運ぶ必要がある。その時、月で安全に保存してある凍結乾燥精子を利用することで、各動物種の遺伝資源を他の星へ運搬するためのコストを大きく減らせるとしている。
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