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快挙続く「はやぶさ2」 持ち帰ったサンプルから分かることと旅路の先に見る“地球防衛”の可能性(1/2 ページ)

» 2020年12月18日 18時25分 公開
[秋山文野ITmedia]

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は12月6日、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルが地球に帰還したと発表した。小惑星「リュウグウ」の地表から採取した試料が入ったカプセルはオーストラリアのウーメラ砂漠の実験場でカプセルを発見され、8日にJAXAの宇宙科学研究所(相模原市)に運ばれた。分析チームがカプセルを開封し、試料の分析を進めている。

 6年に及ぶはやぶさ2のミッションは主な目標をほぼ終え、「フルサクセス」達成に向けて残る課題は「採取した試料の分析で、鉱物・水・有機物相互作用に関する新たな知見を得る」のみ。小惑星サンプルの研究に向けた準備を整えた状態となった。

photo カプセル到着の12月8日、帰還成功を祝う「はやぶさ2」運用チーム。前列左から2番目は津田雄一プロジェクトマネジャー
photo JAXAの宇宙科学研究所に到着した、はやぶさ2の再突入カプセルが納められた運搬容器。搬入にあたった澤田弘崇さん(左)らカプセルとともにオーストラリアから帰国した回収班は、キュレーション施設でコンテナ開封を準備しながら2週間の隔離を続けなくてはならない

 JAXAはその後、リュウグウ由来とみられる砂の粒やガスのサンプルを確認したと発表。さらに詳しい分析を進めるとしている。今後、はやぶさ2にはどのような成果が期待できるのだろうか? これまでの経緯を振り返り、考察してみよう。

打ち上げから小惑星リュウグウ近傍フェーズまで

 工学実証機として世界初の小惑星への着陸、サンプル採取を成功させ、2010年に地球へ帰還した「はやぶさ」の後継機として、はやぶさ2は計画された。宇宙科学コミュニティーの枠を超え一般の人々からの応援も熱かったものの、はやぶさの運用は困難を極め、プロジェクトチームは多大な労力を割かざるを得なかった。はやぶさ2は、探査技術の完成と「行けるところに行くのではなく、狙ったところへ行き、帰ってくる」という目標の達成を目指した探査機だ。

 はやぶさ2は14年12月3日に打ち上げられ、地球に接近する軌道を持つ小惑星リュウグウへ18年6月27日に到着した。リュウグウは直径約900m、自転周期は約7.6時間。「コマ型」といわれる赤道付近が膨らんだ回転対称の形状で、過去には3.5時間程度で自転していたと見られている。

 はやぶさ2は観測機器として、リュウグウの形状や表面の様子を撮影する3台の光学航法カメラ(望遠の「ONC-T」、広角の「ONC-W1」「ONC-W2」)や小惑星の表面温度を調べる「中間赤外カメラ」(TIR)、水を含む鉱物がある帯域の光を吸収する性質を利用して小惑星表面の鉱物の分布を調べる「近赤外分光計」(NIRS3)、小惑星と探査機間の距離を測定する「レーザ高度計」(LIDAR)などを搭載。これらを使った観測成果は後に米科学誌「Science」の特集にもなっている。

 18年9月21日には、はやぶさ2から移動可能な小惑星探査ロボット「MINERVA-II1」(ミネルバ2-1)2機を投下。ミネルバはモーターの回転を利用してジャンプする「ホップ」で移動する機能を備え、カメラと温度計で小惑星の表面の様子を観測できる。後に「イブー」(ローバー1A)、「アウル」(ローバー1B)と命名された2台は、未知なる小惑星の表面でホップによる移動技術を実証し、リュウグウ表面から一面に岩塊の広がる画像の多数送信に成功した。

 同年10月3日には、はやぶさ2からフランス、ドイツが開発した小型表面探査ロボット「MASCOT」(マスコット)が投下。16時間の活動でカメラや分光顕微鏡、熱放射計、磁力計という科学観測機器を備え、リュウグウ表面の物質を観測した。

牙を剥いたリュウグウとタッチダウン

 はやぶさ2の挑戦は順風満帆だったわけではない。最大のミッションであるサンプル採取は、18年9〜10月に行う予定だった。ところがリュウグウの表面は「(平たんな)砂地に岩が散在している」という事前の予想とは異なり、「地面そのものが大小さまざまな岩の集合」という状態であることが判明。想定していた直径100mの平たんな領域は見つからず、険しい地形で岩の隙間を縫うように探査機を誘導、制御する技術を急いで確立しなくてはならなかった。

 プロジェクトチームはタッチダウンを延期し、19年2月22日に第1回タッチダウンに臨むこととなった。目標地点には探査機の左右太陽電池パドルがギリギリ収まる直径わずか6mの領域しか降りる余地がない。そこで探査機はターゲットマーカーをカメラの視界に入れながらタッチダウンを行う「ピンポイントタッチダウン」という精密な方式を採用。候補地点「L08-E1」はあらかじめ投下してあったターゲットマーカーに近く、高さ60cm以上の岩が見られない地域だ。

 直前まで計画を練り上げた運用シーケンスは全て正常に進み、初代はやぶさの経験を生かして小惑星表面でサンプル採取の手順を全て実行できた。後に「たまてばこ」の愛称が付いたタッチダウン予定地点の中心と、はやぶさ2機体の中心とのずれ(誘導制御の誤差)はわずか1mと、岩塊の間を縫って着陸した精密さでも高い成果を上げた。

 タッチダウン時、サンプラホーン(サンプル回収装置)の先端を撮影する小型モニターカメラ「CAM-H」の画像には、岩のかけらが舞い上がる光景が写っていた。プロジェクタイルの発射や探査機上昇の際のエンジン噴射によって舞い上がったと見られ、タッチダウン成功を祝う紙吹雪にも例えられている。

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