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「ゼルダの伝説 ティアキン」制作の舞台裏 「トーレルーフ」が生まれるきっかけとなった“3つのアイデア”CEDEC 2024(1/4 ページ)

» 2024年08月28日 08時00分 公開
[石井徹ITmedia]

 任天堂の看板タイトル「ゼルダの伝説」シリーズ最新作「ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下ティアキン)。2023年5月の発売以来、世界中のゲーマーを魅了し続けているこの大作だが、その中にある革新的な機能「トーレルーフ」の開発秘話が「CEDEC 2024」で明らかになった。

「トーレルーフ」の開発秘話が「CEDEC 2024」で明らかに

 「トーレルーフ」は、主人公・リンクが天井を通り抜けて上に移動できる能力だ。この機能により、プレイヤーは建物や洞窟内での移動が格段に容易になった。一見単純な機能に思えるかもしれないが、この機能の実現には、複数の専門分野の技術と知恵を結集する必要があった。

 ゲーム内で洞窟や建物の探索をより自由に、そして楽しくするこの機能。その誕生の裏には、3人の専門家たちの努力と創意工夫が隠されていたのだ。

“3つのアイデア”がトーレルーフの実現につながった

地上、空、地下 複雑な地形の管理方法とは?

 トーレルーフ機能が生まれる以前から、開発チームではさまざまな技術的課題に取り組んでいた。これらの取り組みは、当初はそれぞれ独立した課題解決を目的としていたが、後にトーレルーフの実現に大きく貢献することになる。

 エンバイロメントプログラマーの朝倉淳さんはティアキンの開発において、ゲーム世界の3D表現をより効率的に行うための新たな手法の採用に取り組んだ。前作「ブレス オブ ザ ワイルド」では、2次元的な地形情報管理を担当。例えば、溶岩の近くで動物が不自然に出現しないよう、溶岩までの距離などの地形情報を2次元のテーブルデータとして管理していた。

エンバイロメントプログラマーの朝倉淳さん

 しかし、ティアキンでは、ゲーム世界が大きく立体化した。空島や地上、地底世界という階層構造を追加し、さらに複雑な構造の洞窟も登場。この3次元的な世界では、従来の2次元的な管理方法では対応が困難になった。

 そこで朝倉さんは、これらの立体的な環境を統一的に管理するため「ボクセルデータ構造」という技術を導入した。これは、3D空間を小さな立方体(ボクセル)の集合として表現する手法だ。

複雑な地形の管理に「ボクセルデータ構造」を導入

 朝倉さんのチームは、3Dソフトウェア「Houdini」を使い、ゲーム内の地形や建物の3Dモデルを取り込み、仮想的な光線(レイキャスト)を飛ばすことでプレイヤーが実際に移動できる場所を特定。その情報をボクセルの集合として効率的に管理できる形式に変換した。ボクセルにデータを格納することで、街道までの距離や樹木の密度などの情報を地上だけでなく、洞窟や空島といった立体的な環境でも一貫して管理できるようになった。

3Dソフトウェア「Houdini」を利用

 加えて、地形コリジョンの裏側判定という、従来は困難だった処理も実現。これは、3D空間内のある地点が地形の表側(プレイヤーが通常アクセスできる側)にあるのか、裏側(通常はアクセスできない地形の内部や裏面)にあるのかを正確に判断する技術だ。この技術により、プレイヤーが地形の裏側に入り込んでしまうようなバグの防止や、複雑な洞窟などの3D環境でも正確に「内側」と「外側」を区別できるようになった。

裏側の管理にも貢献

 この手法により「一貫した地形情報へのアクセス手段」を提供することを実現。これは洞窟や空島を含む全ての環境で統一的に地形情報を参照でき、異なる環境間での挙動の不整合を防ぐことができた。

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