ティアキンに搭載した独創的な機能「トーレルーフ」。この機能の誕生は、ここまで紹介してきた3人の専門家の独立した取り組みが予期せず融合した結果だった。アイデアが生まれたきっかけはテストプレイ中に浮上した「プレイヤーが洞窟の奥まで探索した後、歩いて引き返すのが面倒」という問題が指摘されたことだ。
この問題に対処するため、開発チームはデバッグツールの一つ「指定場所へ即座にワープする機能」に着目。「プレイヤーがこの機能を使えれば面白いのではないか」。この発想がトーレルーフの始まりだった。
しかし、単純なワープ機能では、ゲームバランスを崩す恐れがあった。そこで、天井を通り抜けて上に移動するというアイデアが挙がった。これなら、プレイヤーの探索意欲を損なうことなく、スムーズな移動を実現できる。
このアイデアを技術的に可能にしたのが、朝倉さんが開発したボクセルデータ構造だった。3D空間全体をボクセルで表現していたことで「プレイヤーが到達可能な床」を高速かつ正確に判定できる状態が整っていた。トーレルーフの基本的なメカニズムを確立した。
しかし、新たな課題が浮上。地形の裏側に残された、コリジョン(CGモデルが衝突したときの判定をする領域)の小さな穴の問題だ。朝倉さんはこの問題に頭を悩ませた。これらの小さな穴を放置すれば、プレイヤーが意図しない場所に侵入したり、ゲームの進行を妨げるバグが発生する可能性があったからだ。
この問題に役立ったのが竹原さんのチームが開発した穴探しツールだ。しかし、このツールには限界があった。穴の大まかな位置は特定できても、具体的な修正には人の手が必要だったのだ。さらに穴の原因は複数の要素が絡み合っており、単純な自動修正は困難だった。
また、穴探しツールを使うはHoudiniのスキルが必要で、誰もが扱えるわけではなかった。そもそも人手不足のため見送っていた数千もの小さな穴を、今回修正する必要が生じたのだ。竹原さんは、地形に詳しくHoudiniのスキルを持つ人材が必要と考えたが専門性の高い人材の確保と適切な配置は容易ではなかった。この状況に、竹原さんは頭を悩ませていた。
突破口となったのは、大礒さんのQAチームが整えた開発チームとテスターチームの協力体制だった。大礒さんのチームは、テスターにも高度なデバッグツールの使用権限を与え、開発者との情報共有を促進する仕組みを既に構築していた。ゲーム内の地形に精通し、有償ツールのHoudiniも扱えるテスターが多くそろっていたのだ。
テスターたちは新たに与えられたツールを駆使して効率的に問題箇所を特定し、詳細な報告を行った。開発者はその情報を基に、的確かつ迅速に修正を行うことができた。
こうして、朝倉さんのボクセルデータ技術、竹原さんの効率的な地形制作と穴探しツール、大礒さんのQAプロセス革新と情報共有文化が見事に融合し、トーレルーフが誕生。この機能は、単なる移動手段の一つにとどまらず、ティアキンのゲーム体験を大きく豊かにする要素となった。
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