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偶然に身を委ねる意思決定ツール「タマタマゴ」は“令和のアナログコンピュータ”なのかもしれない分かりにくいけれど面白いモノたち(3/5 ページ)

» 2024年08月31日 18時07分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 ジョルディ・ロペス・アギロさんといえば、アッシュコンセプトのブランド「+d(プラスディー)」で、多くの製品をデザインされている方で、例えば、回すとビックリマークが浮かび上がるコマ「Spin(スピン)」(1100円)や、流星をクレーターでキャッチするというコンセプトで、けん玉をリデザインした「Meteor(メテオ)」(6050円)など、数多くの、ちょっと不思議な感触の製品を発表している方。その彼が持ち込んだ、不思議なツールともオブジェともつかない、卵っぽいものに対して、砂口さんは、アッシュコンセプトの「不思議なものってなぜ不思議なんだろう」というものを製品化しているブランド「ハテナラボ」での製品化を提案した。しかも、その時点から、既に「タマゴ」という呼称で企画が始まったという。

 では、このアナログコンピュータ的なふるまいは、どういう仕組みで実現しているものなのか。何度試してみても、内部で何か機械的な動きをしている様子は感じられないし、ボールを入れたら、すぐに下から出てくるし、なのに、3分の1の確率になっているという、その仕組みは、ただ使ってみるだけでは、私には全く分からなかったのだ。

「ジョルディさんは、同じシステムを使った色んな形を作っていたんですけど、その中で3分の1がいいんじゃないか。イエス・ノーだとつまらないけど、イエス・ノー・多分、の3つなら面白いということになりました。仕組み自体は、実はかなりシンプルなものなんです」と言って、砂口さんが見せてくださったのは、医療器具などを作るのにも使われているという高精度の3Dプリンターで作られた物体だった。

 それは、下に行くに従って細くなっている螺旋状の管の最下部が3つに分かれている形状の手のひらにのるくらいのもの。つまり、この螺旋状の管を、ボールが滑り落ちていって、3つの出口のどれかから出るということなのだろう。

「管をこんな風に螺旋(らせん)状にして、その螺旋でボールをスピードアップさせてから一点に収束させれば、3つの出口から均等な割合で出てくるんじゃないかというのを、ジョルディさんが3Dプリンターでいくつも試作して、スペインから送ってもらったり、データをもらって、こっちで出力したりしながら、少しずつ作っていきました。卵形にした時に、卵に見える程度のサイズの中に収まるようにするのが大変でした。その制約の中で、スパイラルの角度や、螺旋の数、ボールには何を使うかなどを、さまざまに検証して、どうにか辿り着いたのが、この最終形態です」と砂口さんは、その、ちょっと生き物の内臓にも似た物体について話してくれた。写真は流石にNGではあったけれど、最初のイメージ図は公開を許して頂いたので、この図から想像してみてほしい。

Tamatamagoの内部の仕組みのイメージ図。このような仕掛けを内部に組み込むことで、ボールの出口がランダムに変わるツールを作ることができるのではないかというところから製品開発は始まった(出典:アッシュコンセプト)

 しかも、3分の1の確率になっているかどうかの検証も、砂口さんとジョルディさんが、せっせとボールを何百個と入れて行ったという。理論的にそうなる仕組みだったとしても、実際に作ると誤差も生まれるし、ボールのふるまいは必ずしも計算通りにいくわけではない。

 そうなると、検証は実際にやってみるしかないのだ。だから、当然だが、このTamatamagoは、あくまでも約3分の1の確率で、ボールが出てくるという書き方になる。でも、それで十分ではないかという気はする。サイコロの目をコントロールしたり、ルーレットで目指す穴に落とすなんて技術は、大昔から伝わっているわけで、ならば、このTamatamagoは、そういう人為的なコントロールが出来ない分、意思決定ツールとしては優秀だと思うのだ。

付属のボールに使われているのは、エアガン用のBB弾。0.12gのものを使えば互換性があるそうだ。付属するボールの色は黄色だが、他の色のものも使える

 ボールを何にするかも大きな課題だった。素材は何にするか、重量はどのくらいがいいのかなどを考えて、一時はマグネット球を使うというアイデアもあったそうだ。

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