国を上げての少子化解消策は、もはや待ったなしの状況にある。その一方で、都内に住む独身女性が地方に移住婚すれば60万円支給という政策が批判を浴び、撤回を余儀なくされた。「女性の人生を過小評価している」という。もっともな意見である。
ただこの政策には前段がある。もともと2019年から男女問わず、地方に移住して就業や起業した単身者には、最大60万円を支給していたのだ。ただ女性の場合は結婚して専業主婦になったり、すでに妊娠していて働けない状態では支給できないので、じゃあ女性に限り「就業や起業」という条件を外して支給しようじゃないかという、制度拡張の話だったのだ。それがまるで、女性は60万円で地方に行って子供を産めみたいな見え方になったことで、世論が暴走した感は否めない。
確かに首都圏一極集中と少子化問題は、密接な関係がある。高コストな生活を維持するのに精いっぱいで、結婚する余裕が持てないというのは1つの説得力のあるシナリオだ。だがそれを単純に「裏返し」にして、地方移住すれば結婚できて子供が増えるという事になるかといえば、そうはならんやろという話である。
少子化、さらに言えば非婚化に歯止めをかけるロジックは、みずほリサーチ&テクノロジーズのレポートにヒントがあるのではないか。文中には「話がややこしくなるので、ここではざっくりと『労働にやりがいはない』と仮定する」として、労働へのやりがいという問題を射程圏内の外側に置いている。
だがこのややこしい部分に、隠されたキーがある。つまり仕事にやりがいがあれば、誰もさっさと金を貯めて仕事なんか辞めてやるみたいな考え方にはならないのである。さらにやりがいを持って働いている人は、人間的にも魅力的で輝いており、恋愛対象にもなりやすいと考えられないだろうか。少なくとも男女問わず、1日もはやく辞めてやるという気持ちでいやいや金のために働いている人を、生涯のパートナーとしては選ばないだろう。
つまりすごく単純な話、みんながそれぞれにやりがいのある仕事に就いて輝いていれば、非婚化や少子化には進まないという仮定は成り立つのではないか。ならば社会が取り組むべきは、「人」と「やりがいのある仕事」のマッチングだろう。やりがいとはそれこそ人によりけり千差万別であり、ある人にはつまらない仕事でも別の人にはやりがいを感じることは十分にあり得る。
だからこそ、学生が最初に就職する際の間口は、成績学歴にこだわらず広くあるべきだし、社会人にはさまざまな転職のチャンスがあるべきだし、同じ社内でもさまざまなジャンルや部署へのトライや副業、社内起業を推奨するべきだ。
現時点での転職は、割のいい仕事へ逃げるという傾向が強く表れすぎており、「やりがい」というパラメータ化できない部分が見過ごされている。まあ、やりがいを強調する転職エージェントほど怪しく見えるという傾向は避けられないところであり、そこがなかなか現実と相いれないところではあるのだが、FIRE希望者の今の仕事への絶望感は、少なくとも「裏返し」にしないとかわいそう過ぎる。
昔のカリスマ経営者が、面白くない仕事でもみんな我慢してやってきたんだ、というのは正論かもしれないが、もうそれでは人生が報われないし、組織を信じて頑張れない世の中になった。非婚化・少子化は、そういう結果ではないのだろうか。
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