「便器のふたを閉めて流してください」──トイレによくある注意書きだが、ふたを閉めると本当に衛生的なのだろうか。産業総合研究所は10月28日、トイレ水洗時に生じる飛沫を可視化し、飛散ウイルスの測定に成功したと発表した。
ラボ内にトイレを模した個室を作り、微粒子計測器を使ってトイレ水洗時に放出される微細な飛沫(エアロゾル)が拡散する様子を測定した。便器は、1回の洗浄で6Lの水を流す節水タイプを使用した。
まず、ふたを閉めない状態でレーザー散乱実験で飛沫の様子を可視化した。すると大きな飛沫は放物線を描いて落下し、小さなエアロゾルは浮遊する様子を捉えた。上方に勢いよく飛び出した飛沫の最高到達点は40〜50cmにも達することがあり、浮遊するエアロゾルは個室内に数分から数十分間も漂う可能性があるという。
ふたの有無による変化を1μmのエアロゾルで比較したところ、ふたを閉めると上方へのエアロゾル発生・拡散はなくなった。ただし、使用者側に15cm程度の距離までエアロゾルが“染み出す”ことも分かったという。
これは水流によって便器内の空気が押し出され、便座と便器の隙間から外に向けて勢いよく放出された結果と考えられるという。このため水洗時には、ふたを閉めた上で「便器から少なくとも15cm以上離れて操作するのが有効といえる」としている。
便器内に排出されたウイルスが、水洗によって飛散・残留する状況も調べた。ふたを閉めて実験した結果、便座の裏面に約3分の1、便座上面に約6分の1、壁(両側合計)に約3分の1放出されることが分かった。「トイレを掃除する場合は、定期的にふたや便座だけでなく、壁の拭き取りも推奨される」としている。
産総研では今後、既存あるいは提案されている水洗方式についても検討し、洗浄効率や節水性能だけではなく、衛生管理や感染防止の面でも優れた便器の開発に役立てる考え。「世界をリードしている日本のトイレをさらに進化させるため、共に研究を推進するパートナー企業を募り、“衛生度”という新たな付加価値を備えた便器の開発と社会実装を進めていきたい」としている。
実験は、産総研センシングシステム研究センターの福田隆史総括研究主幹ら3人と金沢大学 理工研究域フロンティア工学系微粒子システム研究グループの瀬戸章文教授が共同で行った。研究成果の詳細は11月3日から7日にかけてマレーシアのクチン市で開催される学会「第13回Asian Aerosol Conference(AAC)2024」で発表する。
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