オーストラリアのインターネット関連の規制法の経緯を調べていくと、かなり早くから法整備がされていたことが分かる。KDDI総研が公開している調査レポートでは、早くも99年には、インターネット上のコンテンツを規制するための法律である「1999年放送サービス修正(オンラインサービス)法」(Broadcasting Services Amendment(Online Services)Act 1999)の成立を受けて、「1992年放送法」が改定されている。
オーストラリアの法律は、法律名に成立年を入れるのが慣例のようで、後年の改正で新しい規制が追加されても、法律名としては古い年号が付いたままとなる。
このコンテンツ規制は、95年に整備された「1995年格付法」に基づいている。これはコンテンツを一般、15歳未満、18歳以上など6段階にレーティングするものだ。国際社会ではこの頃、コンピュータゲームのレーティングがスタートしており、暴力や性的表現に対する青少年保護が活発化した時代である。
ちなみに日本のゲームレーティング機構であるCEROは02年設立だが、規制が遅かったわけではない。各ゲーム機メーカーが独自基準で審査を行ってきたものを、標準化したのが02年頃という話である。
この一例でも分かるように、日本は基本的に事業者や業界団体の自主規制が望ましいと考えている。一方欧豪といった先進諸国では、自国内にめぼしい事業者がおらず自主規制が機能しないという事情もあり、法規制に傾く傾向がある。日本でも、事業者が少ないインターネットサービスに関しては、法規制で対応して行く方向にある。
国立国会図書館の調査資料によれば、オーストラリアでは15年には児童に対するネットいじめ対策として、「2015年児童オンライン安全強化法」が制定している。これにより、「児童ネット安全コミッショナー」制度が導入され、コミッショナーによるネットいじめに対する苦情取扱制度などがスタート、ネットいじめの書き込み削除通告などが規定された。
この法は17年に改正され、その範囲を成人にも拡大した。現在は法律名も「児童」が取れて、「2015年オンライン安全強化法」となっている。またこの改正時に、いわゆるリベンジポルノ対策として、教育及び調査がスタートしている。この結果を受けて18年には、性的画像を被写体となった者の同意なしに共有することを禁止する改正を追加している。
19年に起こった隣国ニュージーランド・クライストチャーチ銃乱射事件により、犯人の画像や「マニフェスト」がインターネット上に拡散した。しかし安全強化法では、ISPに対して有害情報へのアクセスを遮断させる権限を持たない。
これを重く見て、21年には暴力的行為を促進・煽動するようなインターネット上の書き込みへのアクセス遮断をISPに対して要求できる「2021年オンライン安全法」が新たに制定された。「2015年オンライン安全強化法」はこれに吸収されている。
こうしてみると、オーストラリアは有害情報(主に性的なもの)への対応は00年以前から始めており、早かった。一方日本では、有害情報から青少年を保護することを目的としてフィルタリング等の導入を規定した「インターネット環境整備法」は、08年に成立している。
ただ日本ではそれに先だって、誹謗中傷などへの対応をまとめたプロバイダ責任制限法が01年に制定された。これは子供に限らず、大人も対象である。何に重きを置くかは、重大事件の発生などが引き金になる事も多く、国ごとに事情が異なる。
オーストラリアでは、青少年保護をネットいじめにフォーカスし、15年から急速に法整備が進んだわけだ。これ以降、急速に法規制一辺倒に進んでいるように見えるが、そうでもない。今回のSNS禁止法可決の直前には、危険性の高い誤情報が拡散するのを防止する行動規範をSNS事業者らに義務付ける法改正案が提出されたが、通らなかった。検閲につながりかねないという主張が勝ったとされており、議論もなしに規制一辺倒で進んでいるわけではないことが伺い知れる。
今回のSNS禁止法は、青少年保護の方向性が非常に強い。この背景には、15歳の少女がネットで10代のふりをした50代の小児性愛者により殺害された事件や、10代の少年がオンラインのセックス強迫詐欺の被害に遭い自殺する事件などが起こり、子供を死から守らなければならないという、喫緊のテーマがあったものと思われる。
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