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16歳未満「SNS禁止」を決めたオーストラリア 唐突にも思える決断の背景とは小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2024年12月05日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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法規制の現実

 ちょうどオーストラリアの法規制が話題になり始めた9月ごろ、Instagramが新しく「ティーンアカウント」の運用を発表した。

 このティーンアカウントは、基本的に全ての保護機能がマックスで適用され、その解除には保護者の許可が必要になる。具体的な方策は、以下のようになっている。

  • 非公開アカウントがデフォルトに: アカウントはデフォルトが非公開なので、見ず知らずのアカウントに勝手にフォローされることがなくなる。これは16歳未満の全てのアカウントに適用され、これからInstagramに登録する18歳未満にも適用される。
  • メッセージ制限: メッセージは自分がフォローしている相手か、すでにフォローされている相手のみに限定される。
  • 不適切なコンテンツの制限:もっとも厳しいコンテンツレーティングが適用され、発見タブやリールに表示されるコンテンツが制限される。
  • 交流の制限: タグ付けやメンションができるのは、自分がフォローしている相手だけに限定。いじめ防止機能の「非表示ワード」の最も厳しい設定が自動的にオンになり、コメント欄やDMリクエストから不快な語句が排除される。
  • 制限時間のリマインダー: 毎日60分が経過すると、アプリから離れることを促す通知が届く。
  • スリープモードの適用: 午後10時から午前7時までスリープモードがオンになり、お知らせがミュートになり、DMには自動返信が送信される。

 リベンジポルノ対策に関しては有効な対策は含まれていないものの、ネットいじめに対する策は含まれている。オーストラリアではこの発表から60日以内に開始とされているので、11月中旬にはスタートしているはずだ。Metaとしては全面禁止以外のプランを提案したわけだが、オーストラリアはこの施策による効果測定を待たずに、法規制へ進んだ事になる。

 こうした背景から、Metaからは「証拠や若者の声をしっかりと考慮せず、法案通過を急いだ」とのコメントが出されたのだろう。

 SNS事業者にとっては、上記のような施策をほそぼそやるより、利用禁止にしたほうが手間はない。だが16歳未満がごっそり抜ければ、SNSとしての規模が縮小し、広告モデルが回りにくくなるという事情もある。

 もう一つの課題は、16歳未満であるという判定だ。これは逆に16歳以上であるという証明を提出することになり、SNS事業者に一定の個人情報を渡す事になるのではないかという懸念がある。オーストラリアでは、政府が発行する身分証明書を使った年齢確認の仕組みを検討している。日本風に言えば、マイナンバーカードを使って年齢確認をすると言っているようなものだろう。

 日本では、年齢確認にキャリア回線契約情報を使っている。キャリア回線契約では必ず誕生年月日による年齢確認が行われている。未成年者の場合は、法律上保護者が契約主体となるからだ。SNS事業者は、アカウント作成時に利用者の電話番号を求めることになっており、その番号でキャリアに年齢を照会、キャリアは「指定された年齢より上か下か」だけの情報を返す。Wi-Fiのみの利用者や、キャリアによる年齢が確認できない利用者は、未成年モードが適用される。まあまあよくできた仕組みなのである。

 子供のSNS禁止は、一種のコミュニケーションの制限に該当する。これは弱者、例えば性的マイノリティーやなんらかの障がいを抱えた子供達の保護という面では、大幅に後退することになる。

 またそこまでの弱者でなくても、SNSの恩恵を受けているケースもある。例えば筆者の子供達は、中学生になる頃にここ宮崎県に転校することになったわけだが、慣れるまでの孤独を支えたのは、小学生時代の友達がSNSでつながっていたからである。この関係は今でも続いており、大学進学による再会を今から楽しみにしている。

 SNSが禁止されれば、こうした支えも得られなくなる。オーストラリアでは、そうしたメリットよりも、子供が死んでしまうことが問題であると判断したわけだろう。それはその国それぞれの深刻な事情があるのだろうし、他国のものが一概に誤りだとか性急だとは決められない。メリット、デメリットのバランスを選ぶのはその国の成人した国民であり、その判断が法律として具現化する。

 SNSは確かにブームだった頃に比べて、つながるメリットが見えづらくなってきている。それはSNSが社会に浸透し、当たり前になったからだ。そうなると、デメリットのほうが目立つことになる。こうした中に子供達を招き入れるのは良くないことではないのかと懸念する人が目立ってきたのは、しかたがないことである。

 一方で、それだけ子供のことを心配する善人もそこそこ多いということでもある。この点においては、SNSもまだ捨てたものではないと思いたい。

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