ITmedia NEWS > 製品動向 >

もう音楽を聴くだけじゃない 「耳に入れっぱなし」が当たり前になった、最新イヤフォンの世界小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2025年03月01日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 バイタルセンシングという点では、これまでスマートウォッチが先行してきた。ただ腕時計は昔と違い、装着しなければならない必然性がなくなった現代においては、嗜好や趣味性が高いものとなった。いくらセンシングできても、重い、見た目がしっくりこないなどの理由で装着したくないという人はいるだろう。あるいは装着が習慣化せず、いつのまにか忘れているという人もあるだろう。

 これに対してイヤフォンは、音楽を聴く、あるいはノイズキャンセルするという目的があるため、能動的に装着する。またコロナ禍以降で働き方が変わったことで、以前とは比較にならないほど長時間装着するということが習慣化した。バイタルセンシングするデバイスとして、腕時計よりも向いている一面はある。

 加えて装着位置も頭部に付けることから、姿勢が判別しやすく、運動との関連性も推測できる。運動時にイヤフォンをする人が多いという点でも、自然にバイタル情報が取れる流れができる。

 またいわゆる「寝ホン」が流行したことからも分かるように、睡眠時にイヤフォンをする人も一定数いるようだ。そういう方達からは、睡眠データも取れるだろう。

聴覚を補うものとして

 ノイズキャンセリングイヤフォンには、外部の音を取り込むためのマイクが付けられている。これを利用して、聴力を補うものとして利用するという使い方が登場している。

 もっともよく知られるのは、24年10月から導入された、Apple AirPods Pro 2の「ヒアリング補助プログラム」である。これはユーザーの聴覚を測定して、再生音を最適化する機能のほか、外音取り込み機能を併用した際に、相手の声を聞き取りやすく変換する、背景のノイズを除去して会話音声を強調するといった機能を持つ。低・中程度の難聴症状に対応できるという。

 興味深いのは、このプログラム(ソフトウェア)側のみ、管理医療機器の承認を受けている事である。一般の補聴器は管理医療機器なので、使用するには医師による診断や処方が必要となるほか、修理も医療機器の修理業の許可を持つ事業者出なければ手が付けられない。AppleではハードウェアのAirPods Pro 2を一般の家電機器に据え置くことで、入手しやすくしている。このプログラムは、無償で提供されている。

 2月にシャープが発売した「SUGOMIMI(スゴミミ)」は、一般のイヤフォンとしての機能を持ちつつ、日常における聞こえに着目した製品だ。対面での会話や外国語のリスニング、音楽コンサートなどさまざまなシーンに対応した聞こえ方にチューニングする機能を備えている。

 もともとシャープではほぼ同じデザインの補聴器「メディカルリスニングプラグ」を手掛けてきた。補聴器なので、管理医療機器である。この知見をベースに作られた「SUGOMIMI」は一般機器なので、入手性が高い。

 おおまかな流れとしては、参入ハードルが高い管理医療機器としての補聴器ではなく、一般機器レベルで高度な聴力補正を行うという方向で技術開発が進められているという印象だ。今後は一般のイヤフォンのような形をした、聴覚補助機能を持つ製品が多く登場してくるだろう。

 管理医療機器であれば、自治体からの補助が出るというメリットがあるので、補聴器が無くなることはないだろう。ただ機能的にはその境目が溶けていくのであれば、管理医療機器でなくても一定の補助を出すということは検討されてもいいはずだ。

 利用者側としても、いかにも医療器具といった見た目の補聴器を付けるより、単にイヤフォン付けてる人と見られた方が良いという人は多そうだ。それだけ、世の中にイヤフォンをしながら過ごしている姿は、社会的に受け入れられたということでもある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR