このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
神戸市立工業高等専門学校に所属する研究者らが発表した論文「運転手の目を表示した自動車前部ディスプレイによる歩行者への運転者意図提示システム」は、運転手の目を自動車前部のディスプレイに表示し、リアルタイムで周囲に運転意図を知らせる手法を提案した研究報告だ。
システムのハードウェア構成としては、自動車のボンネット上に2台のモバイルディスプレイ(18.5インチ)を固定した。ディスプレイは周囲から見えやすいヘッドライト周辺に配置している。また、運転席ではダッシュボード上のハンドル背面Webカメラを設置し、運転手の顔を正面から撮影できるようにした。
ソフトウェア面では、顔のランドマークを検出し、目の周囲の映像のみを切り出して、それぞれのディスプレイに片目ずつフルスクリーンでリアルタイムに出力する。
システムの評価のため、提案手法を搭載した自動車の映像を撮影し、その動画を23人の実験協力者に視聴してもらい、アンケート調査を実施した。
調査結果から、目を搭載した自動車について「気持ち悪さを感じる」と回答した人が60.9%と、否定的な印象を持つ人が多かった。一方、親しみやすさについては意見が分かれた。プライバシー侵害のリスクについては87.0%が「全く思わない・あまり思わない」と回答した。
運転意図理解については、目の向きを用いたことで運転手の意図理解に役立つと86.9%が回答し、提案手法の有効性を示した。特に、目が歩行者を向いているときは歩行者が認識されていると感じ、道路横断の意思決定に強く影響することが明らかになった。
応用例として居眠り運転の車外への周知機能が挙げられる。運転手が目を閉じた状態を外部に表示することで周囲に居眠り状態を知らせ、より効果的に事故防止ができる可能性がある。
Source and Image Credits: 古川 澄空,高田 崚介, 運転手の目を表示した自動車前部ディスプレイによる歩行者への運転者意図提示システム, 情報処理学会, インタラクション2025論文集, 3A08, pp. 1034-1038.
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR