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中国、“脳にチップ移植”3人成功 年内にさらに10人、人体での検証加速

» 2025年03月31日 18時59分 公開
[ロイター]

 中国・北京に拠点を置く中国脳科学研究所(CIBR)と、国営企業のNeuCyber NeuroTechは3月27日、2025年末までに患者13人の脳に対するチップ移植を目指していると発表した。CIBRとNeuCyberによる共同プロジェクトが実現すれば、患者のデータ収集でイーロン・マスク氏率いる米Neuralinkを追い抜く可能性がある。

 CIBR所長でNeuCyberの主任科学者であるルオ・ミンミン氏は、過去1カ月間に3人の患者へワイヤレス脳チップ「Beinao No.1」を移植しており、さらに25年中に10人への移植を予定していると述べた。

 NeuCyberはさらに大規模な実験も視野に入れている。ルオ氏は北京で開催されたテクノロジーイベントで「26年は規制当局の承認を得て、約50人の患者を対象とした正式な臨床試験を実施する予定だ」と記者団に対して述べた。ただし、試験期間や資金についての詳細は明らかにしていない。

 CIBRとNeuCyberが人体での検証を加速させれば、Beinao No.1は世界で最も多くの患者に使用される脳チップとなる可能性がある。これにより、BCI(脳コンピュータインタフェース)技術で欧米を追い上げようとする中国の意欲が明らかになった。

 米国のBCI企業Synchronは、ジェフ・ベゾス氏やビル・ゲイツ氏らが出資する企業で、米国で6人、オーストラリアで4人の患者に臨床試験を行い、世界をリードしている。一方、マスク氏のNeuralinkは現在3人の患者に脳チップを移植している。

 Neuralinkは信号の品質を最大化するため、脳内に直接挿入するチップの開発を進めている。一方、競合各社は脳の表面に設置する「半侵襲型」のチップを研究している。後者は信号の品質で劣るものの、脳組織の損傷や術後の合併症リスクが低い。

 中国の国営メディアが3月に公開した映像では、まひ症状のある患者がBeinao No.1を用いてロボットアームを操作し、水をコップに注いだり、自分の考えをコンピュータ画面に文字として表示したりする様子が紹介された。

 ルオ氏は「Beinao No.1の人体での検証成功のニュースが流れて以降、数えきれないほど多くの人から支援要請を受けている」と語った。

 24年時点では、CIBRとNeuCyberはまだ人体での検証を開始しておらず、脳に挿入するチップ「Beinao No.2」を猿で検証し、ロボットアームを操作できたと発表していた。

 ルオ氏は、Neuralinkに似たワイヤレス版のBeinao No.2を開発中で、今後12〜18カ月以内に初の人体試験を行う予定だと述べた。

 Synchronは半導体大手の米NVIDIAと提携し、同社のAIプラットフォームを自社のBCIシステムに統合すると発表した。ルオ氏は、CIBRとNeuCyberも投資家と積極的に交渉を進め資金調達を目指しているが、Beinaoとの提携を望む企業は早期の利益追求ではなく、長期的な視点を持つ必要があると述べた。

 また、ルオ氏は「短期的に見れば、BCI分野で商業化できるものは非常に限られている」として、Beinaoは中国軍とは一切関係がなく、あくまでもさまざまなまひ症状を抱える患者を助けることを目的としていることを強調した。

 NeuCyberの2023年の収益は90億元(約12億4000万ドル)を超えているという。

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