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ソニーもBD生産終了、近づく“テレビ保存文化”の終焉 「残し続けたい」を阻む大きな壁とは小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2025年04月03日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 2024年11月ぐらいから話題になった「VHS2025年問題」。25年にはVHSの保守部品が手に入らなくなり、再生機の修理が困難になることから、もう見られなくなるのではないかとの懸念が出てきた。VHSからのダビングを請け負う事業者の元へは、いまだに依頼者の列が続いているという。

ソニーがBlu-rayディスクの生産を終了

 この時筆者は、VHS映像をDVDやBlu-rayに残すのは危険だと警告した。ディスクメディアも長期間保存できる確証はなく、さらに言えばVHSと同じように再生機が消滅する可能性があるからだ。

 そして25年2月にはソニーがBlu-ray Discの生産を終了した。国内シェア第2位、およそ3割を占めるソニーの撤退で、ディスクの供給はほぼ台湾メーカー頼みとなった。そういう台湾も、地元の需要があるわけではない。テレビを録画して保存するという文化が存在するのは、ほぼ日本だけだからだ。

なぜテレビを録画するのか

 テレビを録画するという習慣が生まれたのは、β(ベータ)・VHS戦争の時代までさかのぼるが、それはテレビ番組というものが一期一会であり、再放送・再送信がほとんどなかったからだ。それに加え、テレビ番組の価値も高かった。映画館が衰退し、ビデオレンタル店が登場するまでの間、お笑いもニュースもスポーツも映画も、何もかもをテレビが直接家庭内にもたらしてきた。

 テレビ録画が多様化したのは、CDーRやDVDーRなどのディスク型記録メディアが登場してからデジタル放送が主力となるまで、96年頃から10年ほどの間だ。PCにチューナーカードを入れて録画したものを編集し、自分でディスクに焼くという方法論が爆発的な広がりを見せ、多くの人はここでビットレートとは何かを学んだ。今の若い人は、映像制作の現場にいてもビットレートが分からないかもしれない。

 デジタル放送が始まった00年代以降は、デッキ型レコーダーが全盛期を迎えた。いったんはHDDに録画するものの、ディスクメディアにコピーする際に再エンコードが発生しないよう、事前にビットレートの計算までしてくれたり、複数枚のメディアに分割してコピーしてくれるようになった。

 保存の内容は多岐にわたる。映画はもっともよく保存されたコンテンツだろう。レンタル店にはない映画を保存し、ライブラリ化するという喜びもあった。録画は、いわゆるコレクター癖との関係性が強い。

 間に挿入されるテレビCMをカットして1本にまとめるという行為は、ある種オリジナルの復元でもある。しかし古いテレビCMが再放送される可能性はないので、今となっては昔のCMが残っているほうが希少価値が出てきている。

 アニメもよく保存されたコンテンツだ。いつしか深夜枠がアニメの主戦場になると、リアルタイム視聴よりは録画しての時間差視聴がスタンダードになっていった。

 OVAのビジネスが安定期に入ると、テレビで放映権を獲得できないアニメ作品が大量にOVA市場に出現したが、逆にメジャー作品は放送が先である。一早く最新作が見たいという濃いファン層、OVAを買うほどではない薄いファン層の両方から、レコーダーが支持された。

 「推し活」という視点も、重要だ。テレビタレントやアイドル推しの場合、番組表から特定のタレントが網羅的に検索・録画できることで、いわゆる「はかどる」という使い方が定着した。

 こうして録画されたコンテンツは、1つの収集結果としてディスクメディアにコピーされ、ライブラリ化される。ディスクメディアはテープよりも場所を取らず、ライブラリの収蔵率の上昇とともに、その網羅性をも押し上げる結果となった。

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