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生成AIで一発お手軽に……ではなかったアニメ「ツインズひなひま」 “職人技”が光る制作の舞台裏を聞くまつもとあつしの「アニメノミライ」(2/3 ページ)

» 2025年06月05日 11時00分 公開

AIは必ずしも省力化につながらない

――TVアニメについて、事前取材で制作の際に扱った静止画連番ファイルはキャラクターのみで3万枚弱、その他の中間素材を含めると10万枚以上だったと伺っています。そこから取捨選択を行い、アニメのリズム感にコマを落として1万枚〜1万5000枚とした静止画に対して、AIによる仕上げ加工を行ったということなので、単純に物量でいえば作画アニメーションと大きく変わらないですね。

飯塚:TVアニメ・ツインズひなひまに限っていえば、通常のTVアニメと変わらない労力が掛かっているのではないかと思います。でも、いま作画アニメーションでは3DCGが用いられていない作品というのはほとんどないのですが、では3DCGが作画アニメーションの負担を減らしたのかといえば、工程が複雑になり、やることが増えたという面も否定できないと思います。

――AI活用によって、作業が減らせる、というわけではない?

飯塚:はい。Stable Diffusionにもv2v(video-to-video)という機能があり、それを用いればもっと簡単に作れるのじゃないかという見方もあると思いますが、動きをAIに考えさせると、どうしても現状「気持ちの悪い」動きになってしまいます。将来的に改善はされると思いますが、「日本のアニメらしさ」を再現しようとすると静止画連番をもとに、きちんとタイミングもとりながら映像にするのがベストだと考えました。

 もちろん、3DCGもAIも活用によって恩恵を受けられる面もたくさんあって、例えばアニメに限らず映像の画面に求められる情報量は増え続けています。手描きではコストが掛かる群衆や爆発などのエフェクトにさまざまな3DCGを用いることで、その情報量を担保しているという恩恵があるわけです。私たちも理想としては作業者の負担を減らしたいという思いはあるのですが、アニメにおける3DCG導入のこれまでを振り返ると、逆に(今後の工程の改善があっても)労力が増えてしまう可能性もあると考えています。

――「アニメ制作における課題解決につながる」という期待があったというお話でもありました。AI導入が3DCGのように画面の情報量を増やすことには貢献できても、作業の削減にはつながらないとなると、100%はその期待に応えるものではなかったということになりますか?

黒澤:そこはまさに走りながら課題を洗い出していく過程だったといえるかと思います。私たちとしては課題が出てきたら、それをさらに次に生かしていこうという考え方で向き合ってきました。

 世界中で愛されているTVアニメは、歴史と技術の積み重ねがあり、いまもクリエイターの皆さんが心血を注いで作っています。一方で、やはり現場には課題があり、AIがその解決に役立つのではないか、という期待もあるのも事実です。スタジオさんと共に歩んでいくうえで、私たちメーカーも率先して取り組まなければならないと考えています。

 そして、一言でTVアニメといっても、そこから展開されるビジネスも含めて、さまざまなバリエーションがあります。例えば大きな予算と手間をかけて制作して大規模なビジネスで回収を図るものもあれば、予算と工数の最適化を図りながらビジネス展開していくものなどさまざまあるわけです。ツインズひなひまについても視聴者の皆さまのさまざまな反応も含めて、KaKa Creationさんとも「AIで何ができて何ができないのか」も整理しながら、次のステップや可能性を探っていきたいと考えています。

――ビジネス展開の可能性も含めてR&D(研究開発)の一環であったということですね。

黒澤:そうなります。だからこその社長肝いりのプロジェクトでもありましたし、1話限定の取り組みでもあったわけです。そのうえで権利運用も含めていろいろ試して見よう、ということですね。

飯塚:私の方からも少し補足をすると、プロジェクト全てに対してAIを活用となると、確かに作業量は減らず、むしろ増える可能性もあるのですが、工程それぞれに対して限定的に使用することで作業量を大幅に減らせる可能性も見えてきています。

(KaKa Creation社資料より)

 資料にあるような写真を1枚のアニメ背景美術に一から作画すると、最低でも1時間程度は掛かりますが、これをAI変換したもののレタッチからはじめれば10分〜15分程度で行うことができます。

 動画についても、モーションキャプチャーから3DCGを介して生まれた連番画像に対するAI変換という取り組みは、作画アニメに対して作業が純増してしまった面はあるのですが、そこまで大規模な工程を必要としないカットでは、背景同様AIが効率化に生かせる場面はあります。例えばわれわれが「0原」と呼んでいた、非常にラフな線画から、一気に仕上げ(彩色)まで済んだ状態までAI変換を行い、それをレタッチすることで1枚の動画を完成させるといった方法は、やはり作業の効率化に大きく貢献するはずです。

(KaKa Creation社資料より)

 ツインズひなひまでは、素材画像をStable Diffusionに読み込み、またレタッチ用のアプリにエクスポートする工程がありましたが、近い将来、Photoshopやアニメ制作現場でも用いられることの多いイラスト制作ソフトに同様の機能が搭載されたり、あるいはAI変換とその後のレタッチが同じプラットフォームで行えるアプリが登場するはずです。作業者が、1つのアプリのなかで、ラフからAI変換、レタッチが行えるようになれば作業スピードと効率はかなりあがりますし、新しいことを試すなどクオリティーアップのためにできることも増えるはずです。

ラフから一気に検査・修正工程に

――なるほど。レタッチの作業自体は、現在のアニメ制作でも動画検査(原画から中割された動画に間違いが無いかの確認と修正を行う工程)や、仕上げ検査でのTP修正(トレイスペイント修正の略。彩色された仕上げ済みの素材についてやはり塗り間違いなどが無いかの確認と修正を行う工程)で行われていますから、最終的な品質の確認と必要な修正は人の目と手で行うということですね。それにしてもかなりラフな絵から、レタッチ(検査・修正)の段階に一足飛びに移行できるのは驚きです。ただ、先ほどのお話にもあったように、動画1枚1枚の絵の前後関係が破綻しないのかは気になります。

飯塚:はい。先ほどStable Diffusionには時間(タイムライン)の概念がなく、前後の整合性・連続性を取るのは苦手とお話したのですが、最低限の要素がズレないようになるAnimateDiffというモジュールがあります。それを用いることで、ガタつきが極力出ないようにはしています。そもそも作画アニメーションでも1枚1枚の動画を見ると、結構ガタガタしているものではあるのですが。

――そうですね。ただ、それを人間が連続して見たときに「気持ちよく」感じられるかが重要です。

(KaKa Creation社資料より)

飯塚:そうですね。ですので、「ひなひま」では、レタッチされた連番画像をどのようなタイミングで表示させるか、必要に応じて不要なコマを間引いたりもしながらAfter Effectsでタイミングを整えています。作画アニメでは、作画に入る前と、作業中にタイムシートを用いて行う作業を、AIによる絵ができた後でやっているイメージですね。

(KaKa Creation社資料より)

――作画アニメでは演出担当がストップウォッチ片手にタイミングを計りながらタイムシートに各コマの配置を行ったりしているわけですが、この作業はKaKa Creationで行われたのですか?

飯塚:はい、そこは私が全部やりました(笑)。1つ前の工程のレタッチは、動画検査の経験のあるアニメーター5人(うち動画検査経験者は2人)と演出としての私の計6人で行っていました。

――そういった作画アニメの経験のあるスタッフを見つけるにあたっては、フロンティアワークスさんもサポートを行ったりはしたのでしょうか?

飯塚:基本的には弊社で人選は行いました。

黒澤:私も知り合いの制作会社にもあたってみたのですが、スケジュール的になかなか難しかったですね。

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