――この取材(4月25日実施)の前日に、YouTubeに「美麗化」を施した動画を公開されていますね。
飯塚:この美麗化には、SNS上で積極的にAIアニメの発信を続けられている852話(@8co28)さんにご協力を頂いています。852話さんはTikTokの立ち上げ時はまだプロジェクトに加わって頂いていなかったのですが、TVアニメの制作では、例えばLoRA("Low-Rank Adaptation=事前学習済みモデルのファインチューニング手法の一つ)の工程について協力をお願いしたり、CGでは恐らく1〜2カ月は掛かったであろうダム穴の生成AIでの表現をお願いしたりしています。
生成AIが苦手とする高解像度の画像出力についても、はじめは学習蓄積の多い低解像度の画像で生成し、それを生成AIで高解像度化(アップスケール・この段階でも高精細化が図られ、追加効果の付与も可能)する工程を構築頂いたりと、かなりいろいろなところで加わって頂いています。
――YouTube動画には「AIパイプライン開発・ルックデベロップメント」とクレジットされていますね。
飯塚:TVアニメについては、弊社のAI/3DテクニカルディレクターのUltra-Noobさんが中心的な役割を果たしていますが、この動画については、エフェクトも伴いながら立体的に動く教室の背景を、生成AIでどのように実現するか、という点を852話さんにはお願いしました。
852話さんに構築頂いたパイプライン(作業工程)をもとに、Ultra-Noobさんをはじめとした弊社のスタッフが完成まで持って行っています。ルックデベロップメントについては、この動画のカットの1枚目は全て852話さんがMidjourneyで作ってくれていて、そこから動画に展開していっています。
――TVアニメ放送後も、「ひなひま」を通じて技術の磨き込みが続いているんですね。初期のTikTok動画の段階では、3DCGモデルの制作にUnreal Engineを使っていたということですが、TVアニメではUnityに変えたとも伺っています。この理由も教えてください。
飯塚:最初、弊社のスタッフがUnreal Engineに慣れていたので、そちらを採用したのですが、Unreal Engineではその後の工程でAIが参照する「線」がきれいにうまく出てこなかったというのが大きいです。われわれの工程ではセルルックの「パキッと」した線が求められるのですが、そこが「ぐちゃぐちゃ」っとなった線が出てきてしまい、AI変換に悪影響が出ていました。そこでセルルックのような高品質な境界線を描画できるPencil+(ペンシル)を使えるUnityに切り替えたという経緯があります。
――なるほど。ライセンス料を巡る混乱もあり、Unreal Engineに移行するスタジオも少なくなかったのですが、こと「ひなひま」についてはPencil+が使えるUnity一択だったわけですね。最後に、このプロジェクトでの手応えや今後の展望について、KaKa Creationさん、フロンティアワークスさんから一言ずつお願いします。
飯塚:先ほど紹介したダム穴のような、地味だけれどもとても工数が掛かるエフェクト表現を、生成AIを用いて監督が意図したように表現することができた、というのが意外とキャラクター表現よりも実は手応えとしてはいちばん大きかったりします。
黒澤:アニメ制作にAIを用いた、ということに対してネガティブな反応がある、というのはもちろん承知しています。その上で本プロジェクトがきっかけの一つとなり、AI利用のポジティブな面、ネガティブな面それぞれについて、ぜひ世の中で議論が進むことを願っています。よく分からないから否定する、とにかくAIは悪だから拒絶するといった状況から、次の段階に進むきっかけになってほしいという気持ちです。
多くのAIの取り組みが発表されている中、24年末からいま現在に至るまでに、世の中のAIに対する忌避感、抵抗感が徐々に薄れてきているのではないかとも感じています。また放送後にはアニメスタジオさんや企業の方からも「こういうことは可能か?」といったさまざまな問い合わせもいただくことが増えました。われわれとしては、ツインズひなひまを足掛かりに、KaKa Creationさんとの新企画の検討はもちろん、技術面での検証やさらなる改善等を続けていけたらと考えています。
――本日はありがとうございました。
筆者はアニメ制作への3DCGの導入期である2010年代からいくつかの取材を行ってきた。その際にも読者・視聴者やクリエイターからのCGに対する忌避感、嫌悪感を感じたが、その頃とAIを巡る現在の状況はよく似ている。ツインズひなひまが1つの節目となり、今後、技術的・倫理的な課題が解決されていくことに期待したいと思う。
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