――そもそも、どうすればAIで勝てるのでしょうか? 専門家たちが口をそろえるのが、「AIの手法よりも、何を学習させるか(データ)が重要」という点です、一般には出回らない独自のデータこそが勝負の鍵を握っているそうですが、具体的にどんなデータに注目しているのでしょうか
ヤナシ社長:特徴量は、AIが学習・予測する際の「材料」のようなものです。料理に例えるなら、どんなに優秀なシェフ(AI)でも、質の悪い食材(特徴量)ではおいしい料理(的中予想)は作れません。私の場合、数多くの当たる予想家の予想分析を通して、優秀な予想家がどんな要素を重視しているかを統計的に解析します。
そこから日々最新の有力な予想ファクターを発掘し、より精度の高い予想を提供するための研究を続けています。私が注目している特徴量には、例えば以下のようなものがあります。
――これらは競馬新聞の文字情報だけではなかなか読み取れないデータですね
ヤナシ社長:人間が見ても、立ち上がって暴れている馬や、下痢をしている馬は買いたくなくなるでしょう? そうしたパドックでの様子が、大衆心理に影響を与え、結果的にオッズのゆがみを生むと私は考えています。AI競馬予想で勝つためには「まだ誰も気づいていない、結果に影響を与える特徴量を見つけ出し、AIに学習させる」という、地道な探求が必要です。
――今後の技術的な挑戦として、どのようなことを考えていますか?
ヤナシ社長:実は音声データの活用にも興味があります。例えば、グリーンチャンネル(JRA関連法人が運営する競馬専門チャンネル)のパドック解説者の音声を取り込んで、解説者の評価傾向やバイアスを分析できれば、新たな特徴量として活用できるのではないかと考えています。
パドック解説者のトーンでオッズが動く可能性がありますから、感情分析やキーワード解析にかければ、数値では表現しきれない馬の状態評価を定量化できるかもしれません。
―― 人間の感性をAIで数値化する取り組みですね
ヤナシ社長:ただ、正直なところリソースが足りないかなぁ……という現実もあります(笑)
音声データの処理は技術的にも計算資源的にもハードルが高いですからね。でも、将来的にはこうした取り組みも重要になってくると思います。
――AI競馬予想の技術は今後どのように発展していくと思いますか?
ヤナシ社長:間違いなくいえるのは「特徴量エンジニアリングの重要性がさらに高まる」ということです。AIモデル自体の性能向上も重要ですが、それ以上に何を学習させるかの設計が勝敗を分けるようになるでしょう。
リアルタイムデータの活用も進むと思います。レース当日の馬場状態、天候、パドックでの馬の様子、馬具変更なども数値化して取り込めれば、予想精度は大幅に向上するはずです。
――AI予想の限界や課題もあるのでしょうか?
ヤナシ社長:実は最近、非常に深刻な問題を感じています。G1レースだけに絞れば回収率120%という結果も出せるのですが、全てのレースを対象にして回収率110%を維持するのは非常に難しくなってきました。
年々AI競馬ユーザーが増えている影響なのか、極端にオッズのブレが大きくなってきているんです。そのため、回収率100%を超える難易度も格段に高くなっています。回収率110%なんて数字も、本来は実現が相当困難です。
AI競馬の黎明(れいめい)期にAIを取り入れたユーザーは、期待値理論を駆使して120%といった高い回収率を実現できていたと思います。しかし現在は、AI予想が一般化したことで市場全体が効率化され、さすがにそこまでの優位性を保つのは困難になってきているのが現実ですね。
――それでも競馬予想にAIを活用する意義はあるのでしょうか?
ヤナシ社長:もちろんです。ただし、ここで重要なのは「利益を出すこと」と「当てること」は全く違うということです。どんな商売でも投資でも同じことなのですが、利益を出すためには、多くのトライと高い再現性を求める必要があります。
一般の競馬ファンは、どうしても目の前のレースを当てたい気持ちが強く出ます。でもそれは、恒常的に利益を出すことと逆の行動になります。恒常的に利益を出すためには、「どう当てるか」よりも「トータルしてどれだけ回収できるか」を追求しなければなりません。
――具体的にはどのような考え方が重要になるのでしょうか?
ヤナシ社長:いろんな戦術はありますが、例えば「レース的中率が20%で回収率が105%にするにはどうするか?」という考え方が重要になるんです。完璧な予想システムは存在しませんが、AIで勝率を上げつつ、最後は人間の直感や経験も大切にする──そのバランスが重要だと思います。
――職人的な感性も取り入れる必要があるわけですね
ヤナシ社長:まさにその通りです。競馬は生き物が走るスポーツなので、どうしても「想定外」が起こります。だからこそ面白いんですよね。
――そういえば先日、久しぶりに馬券の利益を脱税したニュースが飛び込んできましたね
ヤナシ社長:データ解析がコモディティ化したことで、そういう人は増えていくと思いますよ。同時に、現在の市場環境において、利益を出しづらくなっているのも事実です。市場全体の効率化が進み、従来の手法では優位性を保つのが難しくなってきています。
――主催者側には、もっとゲームの難易度を上げたり、馬券の種類を増やしたり、法改正を求めたいところでしょうか
ヤナシ社長:ギャンブル依存症対策の観点でなかなか難しいとは思いますが、今のままでは競馬予想界のいわゆる“アッパーマス層”が増えすぎて、利益が出しづらいのも事実です。悩ましいところですね。
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