このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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中国の復旦大学などに所属する研究者らが2024年に発表した論文「Plasma proteomics identify biomarkers and undulating changes of brain aging」は、人の脳画像と血液中のタンパク質を詳しく調べることで脳の老化を調査した研究報告だ。
研究者たちは、英国バイオバンクの1万949人の健康な成人の脳画像データを使って、AIによる脳年齢の予測モデルを作成した。脳年齢とは、脳の状態から推定される年齢のことで、実際の年齢との差(脳年齢ギャップ)が大きいほど、脳の老化が進んでいることを意味する。
次に、4696人の血液中のタンパク質(血漿プロテオミクスデータ)を詳しく調べた結果、13種類のタンパク質が脳の老化と深く関係していることが分かった。
特に重要なのは、タンパク質の「ブレビカン」と「GDF15」だ。ブレビカンが血液中に少ない人は認知症や脳卒中になりやすく、逆にGDF15が多い人もこれらの病気のリスクが高いことが明らかになった。
この研究で最も興味深い発見の一つは、脳の老化が一定のペースで進むのではなく、波のように変化することだ。57歳、70歳、78歳の3つの時期に、血液中のタンパク質が大きく変化することが判明。それぞれの時期で変化するタンパク質の種類が異なり、体内で起きている老化のプロセスも違うことを示した。
(関連記事:「44歳」と「60歳」の2段階で人の老化は一気に加速 米スタンフォード大学などが24年8月に研究報告)
57歳では代謝プロセスに関連するタンパク質の変化が顕著で、70歳では神経発達経路に関連するタンパク質が変動し、78歳ではJAK-STATシグナル伝達経路に関連するタンパク質の変化を観察できた。
Source and Image Credits: Liu, WS., You, J., Chen, SD. et al. Plasma proteomics identify biomarkers and undulating changes of brain aging. Nat Aging 5, 99-112(2025). https://doi.org/10.1038/s43587-024-00753-6
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