東京大学物性研究所などの共同研究チームは8月7日、ヒスイの中から、新種の鉱物を発見したと発表した。ヒスイは、日本鉱物科学会が日本の「国石」として選定している鉱物。このため研究チームは、ヒスイから見つかった新鉱物について、日本神話に登場する天照大神の名を冠した「アマテラス石」(学名:Amaterasuite)と名付けた。
アマテラス石は、その化学組成と結晶構造において新規性を持つ。アマテラス石の理想化学組成は「Sr4Ti6Si4O23(OH)Cl」で表され、ストロンチウム(Sr)とチタン(Ti)に加え、ケイ素(Si)、酸素(O)、水素(H)、塩素(Cl)が主成分となる。この元素比率は、これまでに報告されたどの鉱物にも見られない独自のもので、全く新しい形成反応の存在を示唆する。
またアマテラス石の結晶構造を分析した結果、特筆すべき特徴も判明。それは単位胞(結晶中の繰り返し単位のこと)に異なる2種類の構造要素を同時に含む“二面性を持つ”ことだ。これまで、アマテラス石の結晶構造は理論的に予測できていたが、実際に観察できたのは今回が初。研究チームは「この成果は、実在する結晶構造の多様性に対する理解を大きく前進させるもの」と評している。
これらの点から、アマテラス石は新鉱物としての基準を十分に満たしており、国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会によって新鉱物として承認された。
アマテラス石と命名した経緯について、研究チームは「天照大神は日本を象徴する存在であり、象徴性という点で日本の国石であるヒスイと重なる。また、神霊が持つ『荒魂』と『和魂』という二面性は、鉱物に見られる結晶構造の二面性に通じる。こうした要素を総合的に踏まえ、日本の石文化への敬意もこめて命名した」と説明している。
ヒスイは、ヒスイ輝石という鉱物で主に構成される岩石だ。ヒスイの中に少量含まれる鉱物は、ストロンチウムやチタンに富む組成を示すことが知られている。このような特徴に着目した研究によって、ヒスイから新鉱物として「蓮華石」や「松原石」がこれまで発見されてきた。
これらの鉱物は、新潟県糸魚川地域のヒスイに特有の鉱物と考えられてきた。しかし研究チームは、岡山県大佐山地域のヒスイからも同様の鉱物が産出することを確認。また大佐山地域のヒスイには、未知の鉱物が複数含まれていることも明らかになり、そのうちの一つがアマテラス石だという。
「鉱物は、地質作用の産物だ。すなわち新鉱物の発見は、未知の地質環境や作用の存在を示すものでもある。従来、ヒスイは沈み込み帯(2つのプレートが衝突して、片方が片方の下に滑り込む場所。日本列島の深部が該当)で形成されると知られてきたが、その中からアマテラス石のような新鉱物が見つかったことは、ヒスイの成因や進化を考察するうえで新たな視点を提供する」(研究チーム)
この研究成果は、国際学術誌「Journal of Mineralogical and Petrological Sciences」に8月7日付で掲載された。
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