このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米国の宇宙望遠鏡科学研究所 (Space Telescope Science Institute)などに所属する研究者らが発表した論文「JWST-TST DREAMS: NIRSpec/PRISM Transmission Spectroscopy of the Habitable Zone Planet TRAPPIST-1 e」は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、地球から約40光年離れた恒星「TRAPPIST-1」の周りを回る惑星「TRAPPIST-1 e」の大気観測に関する新たな成果を発表した研究報告だ。
TRAPPIST-1は温度の低い赤色矮星(小さくて低温な恒星)で、7つの地球サイズの惑星を持つ。このうちTRAPPIST-1 e、TRAPPIST-1 f、TRAPPIST-1 gの3つは、恒星からの距離が適切で、理論上は液体の水が存在可能な「ハビタブルゾーン」(生命居住可能領域)に位置する。TRAPPIST-1 eは地球の約0.92倍の大きさで、質量は0.69倍、公転周期は約6日だ。
研究チームは2023年6〜10月の計4回、惑星が恒星の前を通過する際の光の変化を0.6〜5マイクロメートルの波長範囲で精密に観測した。この手法により、もし大気が存在すれば、その成分に応じて特定の波長の光が吸収されるパターンから大気の組成を推定できる。
観測の結果、TRAPPIST-1 eは水素が80%以上を占めるような原始的な大気を持たないことを示した。もし水素があるとしても、地球や火星、金星と同じくらいの極めて少ない量という。これは、惑星形成初期から残存する水素主体の厚い大気が存在しないことを意味し、もし大気が存在する場合は地球型の二次大気(惑星の内部から放出するガスで構成する大気)である可能性を示唆する。
しかし、現段階のデータでは、TRAPPIST-1 eが薄い大気を持つのか、それとも全く大気を持たないのかを区別することはできなかった。この不確実性の主な原因は「恒星汚染」と呼ばれる現象だ。TRAPPIST-1の表面には温度の異なる領域(黒点など)が存在し、これらが観測データに大きな影響を与え、惑星大気からの微弱な信号を覆い隠してしまう。
研究チームは、ガウス過程と呼ばれる統計的手法を用いてこの影響を補正する新しい解析手法を開発したが、それでも現在の4回の観測データでは大気の有無を確定するには至らなかった。
今後の展望として、JWSTの追加観測プログラムでTRAPPIST-1 bとeの合計15回の観測が計画されている。これらの観測により、恒星汚染の影響をより正確に除去し、TRAPPIST-1 eが地球や金星、火星のような二酸化炭素、窒素、メタンなどを含む二次大気を持つかどうかを明らかにできると期待したい。
Source and Image Credits: Nestor Espinoza et al 2025 ApJL 990 L52. JWST-TST DREAMS: NIRSpec/PRISM Transmission Spectroscopy of the Habitable Zone Planet TRAPPIST-1 e. DOI 10.3847/2041-8213/adf42e
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