このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米国のバイオ医薬品企業Mind Medicineの研究者らが米国医師会雑誌(JAMA)で発表した論文「Single Treatment With MM120(Lysergide)in Generalized Anxiety Disorder」は、LSDを医薬品として精製した「MM120」による臨床試験結果を発表した研究報告だ。今回の試験では、たった1回の服用で約3カ月間にわたって不安症状が改善することが明らかになった。
MM120とは、同社が精神障害の治療薬として医療用に開発している、LSD(リゼルギン酸ジエチルアミド)を有効成分とする医薬品候補だ。
全般性不安障害は、仕事や家庭、人間関係などについて過度で制御困難な不安や心配が持続し、身体症状を伴って日常生活に支障を来す精神疾患である。米国では成人約2600万人がこの病気にかかっており、既存の治療薬では約半数の患者が十分な改善を得られないという深刻な状況にある。
試験では、全般性不安障害に苦しむ患者198人(18〜74歳)を対象にプラセボ対照試験を行った。患者を無作為に5つのグループに分け、MM120を25、50、100、200マイクログラムの用量、またはプラセボ(偽薬)を1回投与した。
その結果、100マイクログラム群と200マイクログラム群でプラセボと比較して統計的に有意な改善が認められた。最も優れた効果は100マイクログラム群で確認され、4週間後には65%の患者で症状が改善、12週間後でも48%が寛解状態を維持していた。この持続的な効果は、従来の不安障害治療薬が毎日の服用を必要とすることと比較して、革新的な特徴といえる。
懸念される副作用については、主に投与当日に限定され、視覚の変化(幻視や錯覚)、吐き気、頭痛などが報告されたが、いずれも軽度から中等度で一過性のものだった。
この結果を受けて、米国食品医薬品局(FDA)はMM120に「ブレークスルーセラピー指定」を与えた。これにより開発と承認審査が優先的に進められることになる。同社は現在、不安障害とうつ病を対象としたより大規模な試験を進めており、2026年に結果が出る予定としている。
Source and Image Credits: Robison R, Barrow R, Conant C, et al. Single Treatment With MM120(Lysergide)in Generalized Anxiety Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA. Published online September 04, 2025. doi:10.1001/jama.2025.13481
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