実際、アダチ版画研究所などが試みている木版画による浮世絵作品は、今やアート作品としてある程度しっかりした価格にしないと制作できないという現状、平版式の凸版印刷によるオリジナルのステッカーというのは、現実的な意味での現代の「浮世絵」と捉えるべきなのだ。
例えば、このマダコのステッカーの拡大写真を見ると、細かい線がすべて見事に鮮明に印刷されているのが分かると思う。今、主流になっている網点による印刷ではなく、版に直接インクを付けたものを押し付けて刷っているのだから、当たり前だが、最小ドットはインクの粒子のサイズであり、超高解像度のデジタルプリンター、例えば、現在美術品の複製などに使われるジクレー印刷にしたところで、高解像度ではあるけれどインクジェットプリンターによる網点の印刷。線自体の鮮明さ、シャープさは比べ物にならない。
参考までに、「STICKER & DESIGN STORE」の製品写真が掲載されたパンフレット(オフセット印刷)から、赤のインクで印刷されたメガネモチノウオのステッカーの拡大写真も載せておく。オフセット印刷だとこんな風に網点で線や色が表現されるただ、印刷技術の歴史などをひも解くと、凸版印刷は、細い線の表現に於いて、凹版印刷に比べると弱いとされることが多い。それは、例えばリトグラフのように石板に線を直接彫って凹状の版を作る方が、周囲を彫って輪郭を凸状にする凸版より細い線が作りやすいということなのだろう。
その理屈は分かる。分かるけれど、それは一般的にそうだということで、常に例外はあるのが世の中。
ドイツのハンブルグから電車で1時間ほど行ったマインツには、活版印刷を発明したグーテンベルクの生誕500年を記念して、1900年に創設された「グーテンベルク博物館」があって、そこには世界の印刷の歴史みたいなコーナーがあった(私が行った2019年2月当時)。そこには当然、日本が誇る凸版印刷である木版画による浮世絵や書籍も展示されていたのだけど、なぜかそれは独立した別コーナーになっていた。
なぜ? と思って、説明を読んだら、どうやら日本の木版技術は世界の水準からは信じられない独自進化を遂げていて、印刷の世界史の中に組み込むと、歴史の流れがおかしなことになるから例外としてコーナーを分けたということらしい。
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