ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

いまさら聞けない「希土類元素」(レアアース) 実はそんなに“レア”じゃない元素の基本を解説(4/4 ページ)

» 2026年01月30日 08時00分 公開
[彩恵りりITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

 希土類元素を抽出する新たな資源としては、火力発電所などで石炭を燃やした後に発生する灰である「フライアッシュ」が注目されています。フライアッシュはセメントに混ぜるなどの用途はあるものの、それでも廃棄物として余ってしまう問題があります。

 もちろん、石炭そのものは希土類元素抽出とは別の環境問題に関連しているものの、それでもフライアッシュから希土類元素を抽出できれば、相対的にとはいえ環境負荷が低くなるでしょう。

 2020年代の複数の研究では、フライアッシュに弱い酸をかけることで希土類元素を効率的に抽出する方法が検討されています。

 例えば、製造における環境負荷が少ない酸であるクエン酸やシュウ酸を使い、ついでに抽出した後の廃棄物を多孔質の吸着剤として使われるゼオライト (沸石) の合成に使うことで一石二鳥を狙う研究があります。

 別の研究では、希土類元素の溶媒となるイオン性液体を使う試みがあります。酸は一度反応すると性質を失ってしまいますが、イオン性液体ならば単に希土類元素を溶かすだけであるため、イオン性液体から希土類元素を取り出し、再度抽出する工程へリサイクルすることが可能です。

 また、電子製品の廃棄物から希土類元素を抽出してリサイクルする都市鉱山の発想もあります。ただし、電子廃棄物に含まれる希土類元素は微量であり、単純な方法は、鉱石鉱物からの抽出とさほど変わらない化学処理を行うため、根本的な解決とはなっていません。このため、化学抽出の方法、特に電子廃棄物から分離して溶液に溶けた希土類元素を回収する方法が課題となっています。

 この回収の課題を解決する方法の1つとして、細菌由来の酵素を使うという発想があります。この酵素は18年に発見され、「ランモジュリン」と名付けられています。ランモジュリンはランタノイドと結合しやすく、他の金属元素が混ざっていたとしても、それらと比べて1億倍も結合しやすいという高い選択性を持っています。

 細菌を使うのは、培養が簡単で倫理的問題が少ないという利点もありますが、遺伝子組み換えによるカスタマイズもしやすいという利点もあります。ランモジュリンの研究では、ごくわずかなアミノ酸配列の変更により、ランタノイドとの結合力をさらに高めたり、特定の元素に結合しやすくなったりするといった性質を持たせることが徐々に理解されています。

 この点はまだまだ研究途上であり、何が最適であるかは探索中ですが、将来的にはこれらの知見が行かされることになるでしょう。

図5:ランタン、ネオジム、ジスプロシウムの硝酸塩の溶液に卵殻を入れ、205℃に加熱し5日間反応させた後の電子顕微鏡写真 この実験では卵殻は完全に希土類元素の炭酸塩である弘三石と水酸バストネス石に置換された (Credit: Remi Rateau, et al.(2024)より図3からiをトリミング)

 最後に、ちょっと変わった希土類元素の回収方法を紹介しましょう。それは「卵の殻」を使う方法です。鶏卵はどの文化圏でも料理に欠かせませんが、推定で1年に1000万トンの卵の殻が発生し、その大部分が埋め立てられているといわれています。

 24年の研究では、ランタノイドの溶液中に卵の殻を入れ、165℃以上の高温で加熱すると、わずか数日でランタノイドの炭酸塩(弘三石や水酸バストネス石に相当)が生じることが示されました。この方法は、高温をかけなければ反応が進まず、ランタノイドの選択性がないなどの難点があるものの、それでも卵の殻という巨大な廃棄物の処理を行えるという点で注目に値します。

参考文献

Joseph A. Cotruvo Jr., et al. “Lanmodulin: A Highly Selective Lanthanide-Binding Protein from a Lanthanide-Utilizing Bacterium”. Journal of the American Chemical Society, 2018; 140 (44) 15056-15061. DOI: 10.1021/jacs.8b09842

Pan Liu, et al. “Green Approach for Rare Earth Element (REE) Recovery from Coal Fly Ash”. Environmental Science & Technology, 2023; 57 (13) 5414-5423. DOI: 10.1021/acs.est.2c09273

Remi Rateau, et al. “Utilization of Eggshell Waste Calcite as a Sorbent for Rare Earth Element Recovery”. ACS Omega, 2024; 9 (24) 25986-25995. DOI: 10.1021/acsomega.4c00931

Daniel O. B. Jones, et al. “Long-term impact and biological recovery in a deep-sea mining track”. Nature, 642, 112-118. DOI: 10.1038/s41586-025-08921-3

Katherine L. C. Bell, et al. “How little we’ve seen: A visual coverage estimate of the deep seafloor”. Science Advances, 2025; 11, 19. DOI: 10.1126/sciadv.adp8602

Ting Liu & Ching-Hua Huang. “Sustainable extraction of rare earth elements from coal fly ash leachates using a recyclable ionic liquid”. npj Materials Sustainability, 2026; 4, 2. DOI: 10.1038/s44296-025-00088-2



前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR