ここで脳裏にちらつくのが、経済産業省が26年1月23日付で募集を開始した『「E2Eに係る安全性評価方法の確立事業」に係る企画競争募集要領』の内容です。この書面の内容を乱暴とは知りつつ要約すると「E2E(End-to-End)」方式の自動運転システムが内包する問題点である「ブラックボックス化された判断プロセス」を安全性評価できる手法がなければ社会実装の承認は困難、という立場を示しています。FSD Supervisedは、まさに純粋なE2E方式、つまり、システムの判断がブラックボックス化されており、安全性評価手法確立へのハードルが高いことからこの経産省の考え方を満たしていません。
いくらレベル2とはいえ、一般道でのハンズオフを実現するADASは、ともすれば人命にも関わる案件であり、許可を出す側にも「責任」が伴います。そのような規制当局だけに、安全性を統計的・確率論的に検証・説明できる手法の確立を求めています。純粋なE2E方式で構築された現状のFSD Supervised(FSD Unsupervisedも含む)は、この領域がとても苦手なのです。
国土交通省がこの経産省の考え方に組みするのかどうかは「中の人」でなければ、分からない部分が多いと思います。ただ、国土交通省にしても、基本的な考え方は同じでしょう。事前に安全性が担保できないシステムについては慎重にならざるを得ないのではないでしょうか。
Tesla側は、FSD Supervisedの事故率について23年時点で約100万マイル(約160万km)あたり0.21件で、米国平均の1.49件に比べ約7倍安全と報告しています。しかし、これは、Teslaが「マーケティングデータ」として公表しているもので、米NHTSA(道路交通安全局)やFHWA(連邦道路管理局)といった公的機関が客観性を伴う公的な情報として公開しているものではありません。
この様なマーケティングデータをもって日本の当局が許諾を出すとは考えられません。また、日本独特の交通法規、固有の文化、経済安全保障などの事情が絡み合い、統計的な数字や技術論だけでは、判断を下せない事情もあるかと思います。
ここまで読むと日本でのFSD Supervised認可が簡単な話ではないように感じるかもしれません。ただ、光明はあります。首相官邸の意向です。日米関税協議の合意により米国企業であるTeslaの案件については、むげに退けられない状況が生まれているようなのです。
例えば、3月27日に「令和7年度補正CEV補助金」が公表されました。「CEV補助金における評価の基準」に基づいて加点方式で車両ごとの補助額を決定しています。それによると、Model 3とYの補助額は127万円とほぼ満額に近い評価を得ています。経済産業省としては、「充電インフラ整備やEV等の生産に必要な主要部品や重要鉱物の安定確保に向けた取組等のメーカーの取組を総合的に評価して補助額を決定」とし、算定基準通りに算出した結果、という話になるのでしょう。
ただ、基準項目にも明記されている整備体制が脆弱であると同時に、評価が低くなる中国国内で製造されたバッテリー(CATLは中国企業、韓国LGエナジー製は中国の南京工場で製造)を搭載するModel 3とYが、なぜそこまで高評価を得られたのか不思議でなりません。首相官邸の意向が働き「総合的」の名の下に恣意的な決定がなされたのでは、という見方も成り立ちます。Teslaよりサービス拠点が多く、中国製のバッテリーを搭載するBYDの補助額が半分以下に減額されたのとはあまりにも対照的です。
このような政治的な状況下において日本政府として米国企業であるTeslaのFSD Supervisedをブラックボックス化の懸念を理由に退けられるのか、という疑問も生まれるわけです。つまり、技術論以前の政治的判断がそこに介在する可能性も否定できないわけです。
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