2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークなどに所属する研究者らがNature Communicationsで発表した論文「Bifidobacterium longum and prebiotic interventions restore early-life high-fat/high-sugar diet-induced alterations in feeding behavior in adult mice」は、幼少期に脂肪や砂糖を多く含むジャンクフードなどの不健康な食事をとることは、大人になってからの食行動にまで長期的な悪影響を及ぼすことを明らかにした研究報告だ。
子どものころに高脂肪・高糖食を与えられたマウスは、大人になってから健康的な標準食に戻り、体重が正常化した後でも、過食、エサを無駄に噛み砕く、甘いものや脂っこい食事を過剰に欲しがるといった摂食行動の異常が治らなかった。
これは、脳の視床下部という食欲をコントロールする領域に、過去の不健康な食生活によるダメージが定着してしまったためだという。
この脳や体への悪影響の現れ方には性差があり、メスのマウスは満腹感に関わる受容体が減少するなど、脳と行動のレベルでオスより影響を受けていた。一方でオスのマウスでは、腸内細菌の成分を感知する機能やステロイド代謝の異常が主に観察された。
しかし研究チームは、こうした長期的な影響に対し、腸内環境を改善する2つのアプローチが有効な治療法になりうる可能性を示した。
1つは、腸内細菌のエサとなるプレバイオティクス(フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖)を与える方法。これは腸内細菌のグループ全体を変化させることで、脳と腸の連携を正常な状態に修復した。
もう一つは、特定の生きた善玉菌であるプロバイオティクス(ビフィズス菌の一種)を与える方法。こちらは腸内細菌の全体的な顔ぶれにはほとんど影響を与えなかったにもかかわらず、ドーパミンに関連する神経伝達や特定の代謝経路の乱れを修復し、摂食行動を正常化させることに成功した。
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