「iOS」は繊細な軌道修正でさらなる発展を目指す:WWDC 2011基調講演リポート(3)(4/4 ページ)
すでに一部の機能が紹介されていた「OS X Lion」と異なり、iPhone/iPod touch/iPad向けの「iOS 5」は、まったく情報がない状態からの発表となった。200の新機能から厳選して紹介された10の機能は、いずれも今後のiOS機器の方向性を予見させる充実した内容だ。
8、「PC FREE」
基調講演ではなぜか8番目に紹介されたが、「iOS 5」で最も大きな発表だったのが、この「PC FREE」の機能だろう。
これからはPCなしでアクティベーションが可能になり、iOS 5搭載の機器は、起動するとおなじみの「iTunesに接続して下さい」の画面に代わって「Welcome」のメッセージが表示され、すぐに利用できる。まさにポストPC時代の幕開けを象徴する機能といえそうだ。
また、同機能の搭載にあわせて、OSの更新もOTA、つまりPCを介さずに無線LAN接続などを使ってiOS機器単体で行えるようになる。しかも、OS全体をダウンロードし直すのではなく、前のOSとの差分だけをダウンロードするデルタアップデートにも対応する。
これまでiPadは欲しかったが、PCを持っていないから買えなかった人、買ったはいいけれどPCを持っていないので友だちのPCでアクティベートした人、というのを最近よく見かける。
スコット・フォースタル氏は、ユーロモニターの2011年3月の統計データを紹介。それによれば、PCを所持してない家庭は中国で70%弱、イタリアで30%強、フランスが30%弱、イギリスで20%強、米国で10%強、そして日本でも約10%ほどいるという。今後はiPadがそうした世帯にPCの代わりとして買われ、使われるようになっていくのかもしれない。そうなれば、iPadの売れ行きもますます加速するはずだ。
これまでアクティベーションといっても、ケーブルをつなげば、一瞬で済んでいたことだし、ほとんどなしでも弊害はなかったはずなのに、どうしてアップルはあのような仕様にしていたのか。それは、iPodに端を発するアップルのポストPC機器が、PCを中心としたデジタルハブのビジョンの下に作られていたからだ。
それではなぜアップルは、これまでそのビジョンをかたくなに守っていたのか? ここで、PCを持たずにiPadだけ購入したユーザーが、iPadで音楽や映画を買い、アプリケーションをインストールし、書類をどんどん作成し、カレンダーに予定を入れ、住所録に何百件の予定を入力したと考えてみてほしい。ある日そのユーザーは、iPadを落として壊してしまったとしよう。すると、それまで貯めこんだデータはすべて消え、音楽もすべて買い直し、データーはすべてもう1度作り直す必要が出てくる。そんな経験をしてしまったら、おそらくその人は2度とiPadを使わないだろう。
もちろん、カレンダーの予定やアドレス帳くらいは、MobileMeを使って同期を行っていれば、かろうじて残すことはできるが、“初めてのPC”としてiPadを買う人となると、なかなかその必要性も分からず、サービスに申し込んでいない可能性は高くなる。
今回、アップルがPC FREEの環境を大々的に発表できたのは、やはり無料で提供され、最初から自動的にオンになっている「iCloud」というサービスの後ろ支えが用意できたからにほかならない。
9、「Game Center」
iOS機器は、気がつけばゲーム機としても大成功を収めているが、そのゲームの楽しさをさらに加速する機能、「Game Center」も大きく前進する。
新しいGame Centerでは、達成度にあわせた得点を友だちと競い合ったり、友だちを新たに発見したり、ゲームを発見したり、交代で手を進めるゲームのネット対戦サポート、AppStoreに切り替えることなくゲームを直接購入する機能も用意される。ここまで機能が充実してくると、他社のソーシャルゲームプラットフォームは、多プラットフォーム対応以外の売りは打ち出しにくくなっていきそうだ。
アップルによれば、すでにGame Centerの登録利用者は5000万人規模になっているという。スコット・フォースタル氏は、8年ほどかけて3000万人しか集められていないXbox Liveと比べ、これがいかに巨大なプラットフォームかを強調した。
10、「iMessage」
最後に紹介されたのは、電話機能を搭載しないiPod touchやiPadも含めたすべてのiOS機器で、ライブのメッセージ交換が可能になる「iMessage」という機能だ。
iPhoneのSMS/MMS風の表示になっているが、相手が文字をタイプ中に「...」と書かれた吹き出しが表示されるなど、話し合いのライブ感をきめ細やかに演出している。3G/Wi-Fiのどちらでも送受信可能で、相手にメッセージが届けられたかどうか、そのメッセージが読まれたかどうかを教えてくれる機能もある。写真や動画などの送受信も可能なようだ。
ただ、iOS機器間という紹介はあったものの、PCとの連携についての言及はなかった。MacではすでにiChatというiPhoneのSMS機能の元になったチャットソフトもあり、今後はこのあたりも連携してほしいところだ。
じわじわ分かるよさが魅力
最後のスライドには、今回紹介しきれなかった新機能が単語だけで羅列されていたが、iTunesとの無線LAN経由での同期や、地図アプリに追加される代替ルートの表示、iPad 2の画面表示を無線LAN経由でApple TVに飛ばす「Air Play Mirroring」など、興味深い機能がてんこもりになっていた。
iPhoneも、iPod touchも、iPadも、ファッションや医療、教育など、幅広い分野での利用が急速に広まっており、下手な機能変更は、そうした利用拡大の可能性をつぶしてしまう要因にもなりかねない。iOS 5は、画面をパっと見ただけではほとんど変わっていないようでありながら、しばらく使っているうちに、「なるほど、こう便利になったのか」とじわじわ便利さが身にしみるアップデートになりそうだ。
リリースは2011年秋ということだが、そのころには新しいiPhoneが登場するのだろうか。そのこともあわせて期待が高まる。
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